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【声明】
薬害イレッサ訴訟の早期解決を強く要望します

2011年6月2日

日本科学者会議
保健医療福祉問題研究委員会
 委員長 牧野 忠康

 薬害イレッサ訴訟は、2月25日大阪地裁判決でアストラゼネカ社の責任、3月23日東京地裁判決ではアストラゼネカ社と国の責任が相次いで認められました。訴訟は双方が控訴し、高裁で争われています。被害発生から8年以上の時間がたち、これ以上の引き延ばしを認めることはできません。
 大阪・東京地裁も2011年1月の和解勧告所見で、話し合いによる早期解決が望ましいとしました。

 日本科学者会議・保健医療福祉問題研究委員会は、「イレッサ再審査に関する意見書」(2010年11月10日)、「声明・和解協議による薬害イレッサ訴訟の早期解決を望みます」(2011年1月19日)で解決へ向けての意見を表明してきました。
 原告の苦労を考え、以下の4点を要望します。訴訟を終結させることで被害者の願いに応え、新たな薬害被害を防ぐ対策実現が早まります。

  1. 薬害イレッサ訴訟統一原告団の「全面解決要求書」に基づく協議よる解決
  2. 被告の謝罪と償い
  3. 薬害イレッサ事件の検証
  4. 再発防止策の具体化

 1、2については、和解勧告時の当委員会声明と同じです。今回、3、4に関する補足説明をします。
 また、5月24日に厚生労働省がおこなった、いわゆる下書き問題について、見解をのべます。

1. 和解勧告に対する学会見解下書き問題の真相解明

 大阪地裁の和解勧告回答期限が迫る1月24日、日本肺癌学会、日本臨床腫瘍学会、日本医学会・高久文麿会長、国立がん研究センター・嘉山孝正理事長の4学会(会長)から和解に反対する声明がだされました。1月25日には日本病院薬剤師会・堀内龍也会長からも同趣旨の見解が発表されました。これら専門家集団の意見や患者団体の意見を受けるとして、アストラゼネカ社と国は和解拒否を回答しました。

 これらの声明は、厚労省の職員が下書きを提供し、医学・薬学関連の6学会へ働きかけた結果作成されたことがわかり、厚労省は検証チームを作り調査しました。その結果5月24日、間杉純医薬食品局長と医薬担当の平山佳伸審議官、担当室長の3人を訓告、担当課長を厳重注意の処分としました。
 「声明文案を提供して見解の公表を要請したこと」が「過剰なサービス」であり、「各学会や個人が独立して行うべき内部意思決定過程に介入したことにもなる」とし、「公務員として行き過ぎた行為であった」との理由で処分したものです。

 しかし、専門家の意見を操作して世論形成して、裁判の帰趨に影響を与えようとする行為自体は問題となりませんでした。アストラゼネカ社との連携や、厚労省の中で誰が主導していたのかもわかりません。
 働きかけられた学会の中で、短時間のうちに学会の名で見解をまとめ公表した学会がありました。学会における民主的手続きという点で疑問を覚えざるを得ません。

 今後、外部調査委員会を設置して、真相解明をはかる必要があります。

2. 薬害イレッサ事件の検証

 イレッサは、新薬承認を急ぐように圧力がかかる中、5カ月間という異例の短期間審査で承認されました。審査担当者と規制当局との間に十分な意思疎通があったのでしょうか。

 「薬害肝炎検証委員会」の「厚生労働省(MHLW)・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)職員に対するアンケート調査結果報告書」をみても、PMDAと厚労省との関係が疎遠で、問題があるとされます。判決でも添付文書への警告記載が問題とされています。実態解明は、現在の課題でもあります。

3. 再発防止策の具体化

(1) イレッサの適応制限をおこなう

 アメリカは、承認後におこなわれた大規模臨床試験(ISEL試験)において、イレッサの延命効果が確認できなかったため、2005年6月、新規使用を原則として禁止しました。2011年1月、アストラゼネカ社はアメリカでの承認申請を2011年9月末に取り下げると発表しました。
 EUでは2度目の承認申請を審査し、2009年7月、EGFR遺伝子変異がある患者に限ってイレッサ使用を承認しました。

 薬事行政は、日米欧医薬品規制調和国際会議( International Conference on Harmonization (ICH) )で規制レベルをそろえてきました。日本におけるイレッサの規制は、添付文書に警告欄を追加し医師の注意にまかせるだけで、欧米の規制当局がとった処置と比較すると不合理さが目立ちます。
 せめて、EUなみの規制措置が必要だと考えます。

(2) 薬事行政を監視する第三者組織を設立する

 「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」報告書で提起されました。1年たちましたが、具体化は遅れています。厚生労働省に早急な具体化と予算化を求めます。

(3) 抗がん剤による副作用死被害救済制度の創設

 医薬品副作用被害救済制度では、抗がん剤は「一般に強い副作用があり、それを承知で使用される医薬品」であるとして、対象医薬品から除外されました。しかし、がんの治療法が進歩し、「がんだから死亡するのは当然」とは言えなくなりました。
 「抗がん剤の副作用でも、死亡被害は救済対象に含めて」という患者・国民の声をうけ、厚生労働省も「十分検討を尽くし」たいとの意向を示しています。早期に制度化されるよう要求します。

 イレッサが輸入承認されてから8年を経過し、2010年9月末までに819名の方が命を落としました
 承認審査とその後の行政対応が問われています。私たちは、日本のがん患者が安心できる治療をうけられるよう、イレッサ訴訟の早期解決と、上記の課題解決を要望します

以上

【参考資料】


【声明】薬害イレッサ訴訟の早期解決を強く要望します (印刷用 pdf)

和解勧告に関するリンク

  • イレッサ被害「防げたはず」 元薬系技官トップが厚労省批判 読売新聞(2011/1/19)
  • 肺がん治療薬イレッサ(の訴訟にかかる和解勧告)に対する見解 久史麿(日本医学会・会長) (2011/1/24)
  • イレッサの和解勧告案に対する国立がん研究センターの見解 国立がん研究センター (2011/1/24)
  • 肺がん治療薬イレッサの訴訟に係る和解勧告に対する見解 日本肺癌学会 (2011/1/24)
  • 肺がん治療薬イレッサの訴訟にかかる和解勧告に対する見解 日本臨床腫瘍学会 (2011/1/24)
  • イレッサ訴訟:和解勧告に関する回答について アストラゼネカ ジャパン (2011/1/24)
  • イレッサ和解提案についての見解 堀内龍也(日本病院薬剤師会・会長) (2011/1/25)
  • イレッサ訴訟和解勧告に関する考え方について 厚生労働省 (2011/1/28)
  • イレッサ訴訟の和解勧告に関する見解 日本血液学会 (2011/2/1)

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