日本科学者会議
保健医療福祉問題研究委員会
委員長 牧野 忠康
2011年1月7日、大阪地方裁判所と東京地方裁判所は、2004年から審理してきた薬害イレッサ訴訟で、和解勧告と所見を出しました。
その勧告の中で裁判所は、致死的な間質性肺炎について十分な注意喚起を行なわなかった被告企業および被告国の責任を、明確に指摘しています。特に、承認時の初版添付文書についての被告らの責任を指摘していることは高く評価できます。
和解の枠組みは両地裁で調整し、同一です。その内容は「被告会社と国は、緊急安全性情報が発出された2002年10月15日までにイレッサを投与され、その副作用として間質性肺炎を発症した患者らの救済を図るべき責任がある」として和解金の支払いを勧告しています。
それ以降に投与を受けた患者や遺族の原告について「訴訟上の紛争の解決を図る見地から誠実に協議する」としています。
イレッサの承認にあたり、臨床治験以外の「拡大治験プログラム」で投与されていた患者に発生した副作用情報が反映されていなかったことや、間質性肺炎は添付文書の「重大な副作用」欄の末尾に記載していただけで、医療現場に危険性情報が十分伝えられていなかったことを所見の中に記載していると報道されています。
原告が訴えていた、発売時点で十分な情報提供がされなかったことが、副作用死被害を拡大したことを、裁判所が認めたものです。
弁護団がまとめた要旨によれば、東京地裁は「肺がん患者に残された時間は、本人と家族にとって極めて貴重な時間であり、本件訴訟の対象となった肺がん患者は、イレッサを服用したことで、全く予期しなかった重い副作用を発症した。想定外の早い時期に死亡した患者本人の苦しみと遺族の悲嘆は察するに余りある」と見解を示しました。
抗がん剤の副作用が副作用被害救済制度の対象から除外されている現状をあらため、副作用死の患者に対する補償を制度化することもこの勧告をもとに実現していくべきです。
裁判所は「本件の経緯と原告らの心情をみるとき、和解成立が、最も望ましい解決と考える」としています。私たちも、和解協議による早期解決が原告の救済だけでなく、薬害防止と抗がん剤療法の改善につながると考えます。
原告団は和解の席に着くことを裁判所に回答しています。被告アストラゼネカ社と被告国には、速やかに和解協議に応じることを強く求めます。
◆ 【声明】和解協議による薬害イレッサ訴訟の早期解決を望みます (印刷用 pdf)