「薬害再発防止のための医薬品行政のあり方について(中間とリまとめ)について」 団体名の公表 差し支えない 団体名称、担当者:日本科学者会議保健医療福祉問題研究委員会(牧野忠康委員長) 所在地:〒113-0034 東京都文京区湯島1-9-5 茶州ビル9F 連絡先:電話 03-3812-1472  Fax  03-3813-2363 [意見](該当箇所は全体です)  「中間とりまとめ」は、「早期に実施が必要な対策」に限定され、しかも医薬品市販後対策に限局したとりまとめとなっています。さらに、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の組織体制の充実にむけての予算措置が中心に記述されています。  最終報告書では、過去の薬害発生の事実を真摯に総括し総合的かつ包括的に薬害再発防止対策が盛り込まれる必要があると考えます。さらに充実した最終報告書になることを期待しています。  そもそも、行政は、薬害肝炎事件の教訓をどのように位置づけているのでしょうか。この事件の主要な問題は、1)承認当時のずさんな審査、2)安全性問題で米国が対策をとった後も国内では使用規制に踏み切らなかったこと、3)80年代中頃に国内での肝炎発生報告数が増えていたことをメーカーがつかんでいたのに行政措置をとらなかったことの3点です。  薬害肝炎事件の問題点を検証すると、行政措置の意思決定過程に多くの問題があることがわかります。再発防止のためには、情報の収集と分析だけでなく、活用することをめざした組織改革と体制整備が必要です。  私たちは、最終報告書に補充していただきたい点として、以下の4点をあげます。  1. リスク低減に関する戦略を確立・実行すること。  2. 安全性情報を医療機関に届けることを企業まかせにせず、行政の責任で行うこと。  3. 添付文書情報を現場にわかりやすい内容にすること。  4. 行政の決定過程とその結果を国民が検証できるようにすること。 1.リスク低減に関する戦略を確立・実行すること。  米国のリスク評価・リスク緩和戦略(REMS)のような医薬品のリスク管理制度への取り組みが日本ではなされていないことを中間まとめで指摘しています。このREMS実施の前提となる「因果関係の評価」に関して、米国では「安全性の懸念があると特定された」段階で、その医薬品名を公表する制度が、FDA再生法に基づき2008年から実施に移されています。  わが国においてもこのような制度の導入を検討するとともに、行政としては、公表後も積極的な追跡調査を行い、因果関係が存在する可能性が高まった場合は、使用中止を含め安全性確保のための最適な措置を、行政の責任において迅速に講ずる必要があります。そうしたことが、薬害再発防止の上で肝要であると考えます。 2.安全性情報を医療機関に届けることを企業まかせにせず、行政の責任で行うこと。  PMDAの副作用情報収集・分析体制を整えるとともに、その結果を行政の責任で医療現場に迅速に伝えることが必要です。医療機関への情報伝達を企業まかせにしていたことが、行政の姿勢として大きな問題です。  薬害肝炎訴訟・東京地裁判決は、1988年6月以降は製薬会社が緊急安全性情報を配布して血液製剤の回収が進み、対策が取られたと判断し、その時期以降は責任なしとしました。しかし、現実には、企業の対策は不十分で、医療の現場では安全でない使い方が続けられ、被害は拡大し続けました。  また、イレッサ薬害事件では、企業が安全性情報の伝達と称して「腺がん・女性・非喫煙者には推奨」と拡販宣伝をおこなっていました。行政自身が責任を持って医療機関に対して情報伝達をおこなう必要があります。 3.添付文書情報を現場にわかりやすい内容にすること。  添付文書に代表される医療従事者向けの情報は、メリハリが無く重要な情報が見過ごされがちです。血糖測定のための穿刺器具使い回し事件でも、緊急安全性情報が医療現場に理解されていなかったことが原因の一つとしてあげられています。情報は届いた相手の行動を変容させなければ意味がありません。  添付文書に記載する安全性情報は、リスク評価がされているとはいえません。報告があった有害情報を列記するのみで、重要性を示す根拠が伝わりません。重篤な副作用が発生した患者背景と症例経過が示されないと、医療現場では治療のガイドラインとして使えないことが問題となっています。  収集・分析をするにあたってもアウトプットを意識したシステム設計をしなければ価値がありません。現在、論じられているPMDAの充実案だけでは、添付文書や緊急安全性情報が効果をあげることは無いでしょう。  過去の薬害では何が不足していたのか、医療現場がどのような情報を求めているのかを調査して、新しい体制を作ることが再発防止のために必要です。 4. 行政の決定過程を整備し、その結果を国民が検証できるようにすること。  検証委員会では、組織の中での情報伝達と意思決定のあり方について、部分的に論議されています。安全対策課が警告を出すだけでなく、代替薬があり、有効性と安全性のバランスが悪くて有用性に欠ける薬は販売中止させるFDAのような対策がなぜとれないのか、検証していただきたい。この間の一連の薬害事件は、販売中止命令を必要な時期に出せなくて被害を拡大させていることが問題となっています。縦割りの官僚組織を統括する、強力な統治機構が必要だと考えます。委員会でも踏み込んだ論議を進めてください。  もう一つ重要なことは、行政が判断したことを国民が検証できる情報公開です。企業の知的財産権を理由とした開示拒否が、薬害裁判で目立っています。安全性を確保するためには、できるだけ多くの情報が国民に示されないといけません。公開の範囲と方法を委員会で検討してください。