厚生労働大臣 細川律夫 殿
2002年7月5日、世界に先駆け、申請からわずか5ヶ月という異例のスピードで承認された肺がん治療薬イレッサは、承認直後から多くの副作用被害を生み出してきた。わが国において、これほどの副作用死亡被害を出した薬害事件はない。このように被害が発生・拡大したのは、致死的な副作用である間質性肺炎について添付文書の警告欄で情報提供することを怠ったアストラゼネカ社と、国が万全な行政指導を怠ったからである。2月25日の大阪地方裁判所の判決はこの事を指摘し、3月23日の東京地方裁判所の判決は国の国家賠償法上の責任を認めた。もはや、これ以上争うことは許されない。直ちに、謝罪と償いをすべきである。
イレッサは、市販後に第V相臨床試験で延命効果を証明することを条件として腫瘍の縮小反応のみに基づいて承認された。重篤な疾患であるがんに苦しむ患者のニーズに応えるためであるとしても、有効性に未解明な部分が残る医薬品を市場に出す選択をする以上は、患者の生命を危険にさらすことのないよう、それに相応しい慎重さが求められてしかるべきであった。しかし、上述のように、承認前からの宣伝広告がなされる一方で十分な警告がなされなかったのが実態だったのであり、更には、使用医師や医療機関の限定も、全例調査さえもなされなかったのである。
市販後においても、承認条件である第V相臨床試験(試験名V1532)で延命効果の証明に失敗し、国内外で実施された多くの第V相臨床試験でも日本人について延命効果を証明できたものはない。米国ではイレッサの市場からの撤退が決定され、EUでは、わが国に遅れること7年、昨年になってようやく承認されたが、EGFR遺伝子変異のない患者への投与は認められていない。日米欧の3極において、日本のように広い適応でイレッサを承認している国はないのである。
薬害イレッサ事件で問われているのは、「がん患者の命の重さ」である。患者の知る権利や自己決定権を奪った薬害イレッサ事件の教訓は、がん患者の権利の確立とこれに基づくがん医療体制の整備にも生かされなければならない。
製薬企業が利潤を上げる一方で、がんというだけで、副作用で死亡しても全く副作用被害救済制度の適用を受けないという現在のあり方は、がん患者の権利保護、薬害防止の観点からも適切ではない。制度創設に向け検討会が開かれるとのことであるが、薬害イレッサの被害者らの声を聞くべきである。
薬害イレッサ事件は、承認前の副作用情報の科学的分析とエビデンスに基づく審査、承認条件、広告規制と医療関係者や患者への情報提供を含む市販後安全対策のあり方についても多くの教訓を与えている。
昨年4月、厚生労働省の「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」は、薬害再発防止に関する「最終提言」をまとめ、厚生労働大臣はその実行を約した。薬害イレッサを検証し、最終提言を確実に実行しなければならない。また、薬害イレッサ訴訟判決で指摘された医薬品添付文書の承認審査での位置づけと国の権限の明文化は、新薬承認が続く中で直ちに実行されなければならない。
本年1月、国は大阪と東京の両地方裁判所が出した和解勧告を拒否するにあたり、医学界関係者に声明を出させるため、厚生労働省がその下書きを提供していたことが判明した。国が、裏で世論を誘導し裁判所を欺こうとする極めて卑劣な行為である。また、この作り上げられた声明で、どれだけ薬害イレッサ被害者がさらに苦しめられたのかに思いを致すべきである。
下書き提供問題についての事実経過を詳細に説明した上で、被害者・家族に謝罪を求める。
◆ 薬害イレツサ全面解決要求書 2011年6月版 (印刷用 pdf)