2011年1月29日
薬害イレッサ訴訟統一原告・弁護団
今月24日、日本医学会会長である久史麿氏は、「肺がん治療薬イレッサ(の訴訟にかかる和解勧告)に対する見解」(以下「見解」という。)を公表した。
「見解」では、薬害イレッサ訴訟について今月7日に東京・大阪両地方裁判所が所見により和解勧告を行ったことに対して、「現在そして未来の患者さんに禍根を残しかねない今回の和解勧告について、強い懸念を抱いています。」と批判している。まず、「見解」は、イレッサが現在も使用されている抗がん剤であり、「過去の薬害とは様相が異なる」と述べている。
しかし、和解勧告は、承認前に得られていた治験及び治験外使用の副作用症例報告から、致死的な間質性肺炎の副作用が発生することが予見できたものであり、それに対する添付文書での注意喚起が不十分だったとして、国とアストラゼネカ社の責任を指摘したものである。これまでの薬害事件でも、注意喚起が不十分だったことによる被害に対する責任が問われており、例えば、薬害肝炎事件の東京地裁判決でも、非A非B型肝炎感染のリスクに対する添付文書での注意喚起が不十分だったとして、国と製薬会社の責任が認められている。薬害イレッサ事件は、過去の薬害事件と別異に考えられるべき事件ではなく、同様に、国と企業の責任を前提として解決が図られるべき事件である。
また、「見解」では、「承認直後に稀におこる重篤な副作用などの未知のリスクは付きものです。」と述べられている。
しかし、先に述べたように、薬害イレッサ事件では、承認前の情報から分かっていた副作用に対する注意喚起のあり方が問われているのであって、「未知のリスク」が問題とされているものではない。
更に、「見解」では、「添付文書に記載があってなお過失があると言われては、正直、現場は途方にくれてしまいます。」とも述べられている。
しかし、注意喚起が不十分として責任を認めたことについては、上述のとおり、過去の薬害事件での裁判所の判断と整合するものである。和解勧告は、副作用の危険性について医療現場に対する十分な情報提供を求めているものであり、これは医療現場にとってむしろ有益な指摘である。医学界の責任のある地位にある者として、和解勧告を評価するどころか、現場が途方にくれると述べることに相当性は認められない。以上のとおり、「見解」における和解勧告の批判には理由がないものである。