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国の和解勧告拒否の不当性

2011年1月25日

薬害イレッサ弁護団

 国会議員むけ学習資料をまとめて収載します。

  1. 裁判所勧告を受けた国のコメントに対して
  2. 薬害イレッサ事件の規制権限不行使論は特異なものではない
  3. 「EAPまで検討していたら承認が遅れる」という国の主張は誤り
  4. ソリブジン事件の教訓とイレッサ
  5. 薬害イレッサ和解拒否は、薬害肝炎検証再発防止委員会提言に反する

裁判所勧告を受けた国のコメントに対して

2011年1月13日

 2011年1月7日の大阪・東京両地方裁判所の和解勧告に対して,国(厚生労働省)の様々なコメントが報じられています。しかし,いずれも全く理由がなく,責任逃れを図るものとしか評価できません。改めて,私たちがめざす解決とともにQ&Aとして整理します。

Q 裁判所の和解勧告を受けて,国は,「副作用が全てわかるまで承認できないとすれば,抗がん剤が承認されなくなる」,「副作用が有効性より重視されるということになれば,医薬品の承認の在り方に影響を与える」,「イレッサの承認が問題となれば,他の新薬で慎重にならざるを得なくなる」などと言っているようですが,薬害イレッサ事件を解決すると抗がん剤が承認されなくなるのでしょうか。

A そのようなことはありません。和解勧告は,イレッサの承認が違法である(早すぎた)と言っているのではなく,承認前に得られていた副作用情報が,医師や患者に十分に提供されていなかったことを指摘しているにすぎません。したがって,勧告の考え方によったとしても,承認の時点でわかっている副作用情報を医師・患者にきちんと提供すれば足りるのであり,承認が遅くなってしまうわけではありません。
 国のコメントは,裁判所の勧告内容をゆがめて批判し,いたずらに患者の不安を煽るものであって,極めて不当です。

Q 国は,「承認後に分かった内容で承認時の責任が問われるならば,薬事行政の根幹を揺るがす」とも言っているようですカミリそのようなことがあるのでしょうか。

A 前の回答でも説明したように,勧告は承認時に分かっていた副作用情報の医師・患者への提供が不十分だったことを指摘しているのであって,「承認後に分かった内容」で承認時の責任を指摘しているのではありません。このようなコメントは極めて不当です。
 また,「薬事行政の根幹を揺るがす」というコメントは,大げさな抽象論で危機感をあおって責任免れをしようとする国の常套手段です。国は,薬害肝炎事件でも,和解前に「これで国の責任が認められたら薬事行政が成り立たなくなる」と言っていました。しかし,和解後は,国に検証・再発防止委員会が設けられ,その最終提言に基づいて「薬事行政を監視する第三者組織」の新設を含む薬事行政の改革が進められることになっています。
 薬害事件で国の貴任を明らかにすることが,薬事行政を前進させるのです。

Q 原告は,薬害イレッサ事件についてどのような解決をめざしているのですか。

A 私たちは,全面解決要求として,被害者・遺族への謝罪と償いとともに,イレッサの効果がないことが明らかとなった患者に対する使用の禁止(承認取消を求めているのではありません),そして,薬害イレッサ事件の教訓を生かした下記の制度改革を求めています。
 ・抗がん剤による副作用死亡被害救済制度の創設
 ・がん患者の権利の確立(がん対策基本法への「がん患者の権利」明記など)
 ・薬害イレッサ事件の検証による薬害の再発防止策の実現

 私たちは,このような制度改革によって,がん患者の権利の確立と薬害防止をめざしています。
 そのためには,被告らの貴任逃れを許さず,真摯に和解協議に応じさせることが今まさに求められているのです。

 ご理解とご支援をよろしくお願いします。

薬害イレッサ事件の規制権限不行使論は特異なものではない

2011年1月23日

1 規制権限不行使論

 国の規制権限不行使が許容限度を逸脱して著しく合理性を欠くとき違法

2 最高裁判例の流れ一生命等保護に関して違法性は厳しく判断

 最高裁は、人の生命・健康の保護を目的とする規制権限の不行使については、違法性を厳しく判断する姿勢を繰り返し示し世論もこれを支持
  ex 筑豊塵肺訴訟上告審、水俣病関西訴訟上告審他

3 所見は、当時の医療現場の認識等ふまえ注意喚起不十分を指摘

 薬害イレッサの東京・大阪両所見とも、承認前の副作用情報からは致死的間質性肺炎の発症予見可旨だったこと、承認当時に医療現場の医師や患者が「イレッサは副作用が少ない薬」と認識していたことを前提に、添付文書の注意喚起が不十分とした

4 添付文書に記載はあっても違法となることについては先例あり

 薬害肝炎東京地裁判決等―薬害肝炎事件では、フィブリノゲン製剤の添付文書に、製剤による肝炎感染リスクについての記載あったが、不十分として違法性を認めた。
 ソリブジン事件の教訓―ソリブジンでも、添付文書の相互作用欄に記載があったが不十分で死者が出た。厚労省は、教訓を生かすため報告書をまとめ、添付文書の記載要領を改訂した。イレッサの承認はその後。
 東京地裁所見もソリブジン事件に言及
 土井元審議官も教訓生かせば防げたはずと指摘(2011.1.19読売夕刊)

5 所見は、重大な副作用欄の記載順序だけを問題としたのでない

 東京地裁所見は、重大な副作用欄の記載順だけを問題にしているのでない。「重大の副作用欄の初めにこれを記載した上、致死的なものとなりうることについて同欄又はその他の欄において記載するよう行政指導することが必要」としている。※「致死的」という記載は初版の添付文書にない。
 承認前、イレッサの注意すべき副作用として下痢と肝機能障害があるが  臨床上余り問題とならないとする専門家見解が医薬文献に掲載されていたことを前提に、下痢や肝機能障害より後ろに記載されていることの問題性を指摘。

薬害イレッサ和解所見の規制権限不行使論は特異なものではない!

「EAPまで検討していたら承認が遅れる」という国の主張は誤り

1 EAPは安全性評価を目的とした拡大治験プログラム

 EAP(Expanded Access Program)は、英国アストラゼネカ社の管理下で行われた拡大治験プログラム。
 アストラゼネカ社は、EAPについて「イレッサ単剤の安全性評価を目的としたものである」と副作用報告症例票に記載。

2 EAPでの副作用にも報告義務あり

 EAPでの副作用症例は、治験薬副作用報告制度の下で報告義務があり、平成12年1月から随時国に報告されていた。
報告させておいて検討できないというのはおかしい!

3 治験外であっても副用報告は重要な資料

 治験は使用条件や症例数が限られているため、治験だけでは副作用の把握に限界がある。安全性評価を治験外の副作用症例も含めて行うのは当然。
 市販後の副作用報告制度は、まさに治験外の副作用情報の収集を目的としたもの。市販前でも治験外の副作用情報の重要性は同じ。

4 承認が遅れるというのは詭弁―問題は症例の見落しと過小評価

 国には、順次EAPでの間室性肺炎症例が報告されていた。
 国は、それを多数見落とし、間質性肺炎の危険性を過小評価した。
 和解所見が指摘しているのは、国の手元にあった情報の評価の仕方の問題。
 「EAPまで検討していたら承認が遅れる」というのは全くの論弁。

 審査センターは、『副作用・感染症名』欄の記載だけを見て・間質性肺炎症例のピックアップを行う初歩的ミスをしていた!
 そのため、症例票の『副作用・感染症の発現状況、症状及び処置等の経過』欄に「間質性肺炎の増悪のため入院」等の記載があり間質性肺炎症例であることが明らかな症例であっても、『副作用・感染症名』欄に「間質性肺炎」と書かれていないものは、検討から漏れてしまった(間質性肺炎症例の見落とし)。

ソリブジン事件の教訓とイレッサ

2011年1月24日

ソリブジン事件とは

1 概要

  • ソリブジン : 平成5年9月に日本商事が販売した新薬
  • フルオロウラシル(FU)系抗がん剤との併用によって,死亡例が発生。
  • 日本商事は,承認前から,この事実を把握。
  • しかし,ソリブジンの添付文書には,「使用上の注意」の相互作用の欄に「FU系抗がん剤との併用を避けること」との記載があるのみ。
  • 市販後,FU系抗がん剤との併用による副作用症例・死亡例が多発。
  • 2 厚生委員会で問題となり,国が報告書を作成

    ○ 平成6年6月9日参議院厚生委員会 今井澄議員
     「やっぱりこれも大いに見直していかないと,今後またこういうことが起こると大変恐ろしいというふうに私は思います。」

    ○ 平成6年9月厚生省薬務局「ソリブジンによる副作用に関する調査結果」

    イレッサは,ソリブジンの教訓を無視し,同じ過ちを繰り返した

    1 見落とされたソリブジン添付文書の注意喚起

     添付文書の相互作用欄に,「FU系抗がん剤との併用を避けること」と記載
     → しかし,医療現場では,これを見落とし,正しく理解せず,多数の死亡被害発生。

    2 ソリブジン事件後,適切な方法で注意喚起するよう,記載要領に関し通知

  • 医療関係者が理解し易く,使用し易い記載要領に改める。
  • 内容からみて重要と考えられる項目は,添付文書の前段に配列する。
  • 結果の重大性等を正しく評価できるようにする。
  • 3 イレッサは通知に従わなかった

     承認前から致死的な間質性肺炎が発症することが分かっていた。
     → しかし,添付文書に致死的なものとなり得る旨記載なく,市販後多数の死亡被害。

    4 元厚生省安全対策担当課長土井脩氏 イレッサ被害「防げたはず」

     「行政がやるべきことをやっていれば被害はかなり防げたはず」
     「間質性肺炎については審査で指摘され,薬の添付文書にも盛り込まれたが,目立たない記載で現場に浸透しなかった」 (2011年1月19日読売新聞夕刊)

    薬害イレッサ和解拒否は、薬害肝炎検証再発防止委員会提言に反する

    2011年1月21日

    1 和解勧告は、医師・患者への情報提供・注意喚起の必要性を指摘

  • 国内治験や治験外使用の副作用報告から、致死的な間質性肺炎が予見可能
  • 承認当時、患者や医師には「副作用が少ない夢の新薬」という期待 ← 企業宣伝
  • 初版添付文書での間質性肺炎の注意喚起は不十分
  • 2 和解拒否は、厚労大臣が実行約した薬害肝炎検証再発防止委員会提言に反する

     「厚生労働省、そして国は、二度と薬害を起こさない、そして国民の命をしっかりと守ることのできる医薬品行政を目指すという想いを新たに、万が一、薬害が発生した場合でも、薬害に関わる問題の早期解決のために、速やかに適切な対策を打てるよう、着実に本提言の内容を実現していくべきである。」 (提言抜粋)

    3 肝炎検証委員会提言のポイント(提言から抜粋)

    @予防原則に立脚した安全対策

    「患者が健康上の著しい不利益を被る危険性を予見した場合には、予防原則に立脚し…予想される最悪のケースを念頭において、直ちに、医薬品行政組織として責任のある迅速な意思決定に基づく安全対策の立案・実施に努めることが必要」

    A把握したリスク情報の適切な評価と伝達

    「安全対策に関わる情報の評価と対策の実施に当たっては、@薬害は、既に製薬企業や行政が把握していたリスク情報の伝達が十分に行われてこなかった…ことによって発生する場合があることや、A入手していた情報の評価を誤り、行政が規制するという意思決定を行わなかったことに本質的な問題があることに留意して、業務を遂行すべき」

    B 未承認薬に係る副作用情報に関する積極的な注意喚起

    「未承認医薬品に係る副作用情報に関して、必要に応じ、広く迅速に注意喚起等を図るべき」

    ※「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」
     薬害肝炎訴訟の基本合意に基づいて厚生労働省に設置、2010年4月に最終提言を出した。厚労大臣は実行を約束している。


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