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リスクを減らす情報技術

(協)医療と福祉・協同組合報 連載記事

藤竿伊知郎 (薬剤師、 協同組合 医療と福祉 情報室、東葛看護専門学校 情報科学・講師)

リスクを減らす情報技術

 「素人のためのコンピュータ講座」を連載しましたが、医療の安全性を高めるために情報の取り扱いが大切であると感じています。
 必要なことを他人に伝えられる文書が作れることを目標として、入門講座を2008年6月から10回にわたり連載しました。。

 本講座では、基本的な考え方、目的とヒントを示し、後は自分で見つけられるようにガイドします。詳しく知りたい方は、参考資料を示しますのでご覧ください。

 ◆ 「リスクを減らす情報技術」印刷用ファイル(pdf、7.7 MBytes)

連載 目次

  1. 感染予防 − 正しく怖がることの大切さ
  2. 感染予防 − 役に立つ対策を
  3. 感染予防 − 国の責任は大きい
  4. 情報伝達 − わかってもらえる文書作り
  5. 情報伝達 − 文は短いほどよい
  6. 情報伝達 − 聞き取れるスピーチ
  7. 情報伝達 − プライバシーを守る
  8. 情報収集 − 持続可能な記録方法を
  9. 情報収集 − 失敗しない、アンケート調査のコツ
  10. 情報収集 − 信頼できる情報を選ぶ
  11. まとめ − 人は誰でも失敗するが、回復できる

リスクを減らす情報技術

(1) 感染予防 − 正しく怖がることの大切さ

ハインリッヒの法則をこえて、事故の時は問題が拡がる

 「素人のためのコンピュータ講座」を連載してきましたが、医療の安全性を高めるために情報の取り扱いが大切であると感じました。ニュースで話題になったものを取り上げながら、情報管理について紹介します。
 情報は、必要なものが理解できる形で対象者へ届けられないと、問題が発生します。採血器具の使い回しがマスコミを賑わしています。初回は、その問題を取り上げます。

  1. 個人用器具を複数患者に使用
  2. 何が問題であったか
  3. 対応策は

 ◆ 本文はこちら >> 「感染予防 − 正しく怖がることの大切さ」

(2) 感染予防 − 役に立つ対策を

再発防止につながる安全対策を

 採血器具の使い回しに関して、マスコミは「多くの医療現場で、安全の基本がなおざりにされていたと言わざるを得ない」中国新聞・社説(6月4日)など、厳しい報道をしました。
 11都県の調査結果がまとまっていない時点で「使い回し、36道府県で18万人超」読売新聞(6月25日)と、広がりの大きさは予測を超えています。
 この事件から学ぶ教訓はなんでしょうか。

  1. どんな、危険性があったか
  2. 注意を求めてすんだのか
  3. 安全な器具に一本化しましょう

 ◆ 本文はこちら >> 「感染予防 − 役に立つ対策を」

(3) 感染予防 − 国の責任は大きい

添付文書に期待される役割

 8月8日、厚生労働省は「穿刺器具に関する調査結果」を施設名とともに公表しました。調査対象となった医療機関10万9569施設中、2万2559施設が器具を使い、その52%、1万1749施設において使い回しがありました。ただし、針を交換していないところは2件だけでした。
 対策として、厚労省は「添付文書を十分に読み、正しい使い方をするよう関係各所に改めて注意喚起し」「採血器具の見直しまでは考えていない」としています。
 通知や添付文書の改訂で対応しようとすることは、間違いです。再発防止には、行政の適切な対応を望みます。

  1. 説明文書は見落とされる
  2. 発生源に手をつけない、労力のムダ
  3. ムダな通知を減らしてください

 ◆ 本文はこちら >> 「感染予防 − 国の責任は大きい」

(4) 情報伝達 − わかってもらえる文書作り

2つの文書タイプ

 情報を有効に生かすリスク管理には、わかりやすい文書が必要です。
 仕事で出会う文書は、二通りに分類されます。相手が理解して行動することをめざす「提案文書」と、都合が悪いことを隠す「いいわけ文書」です。
 私たちは、読者が時間をかけて解析し、行間に潜む真意を探ることに労力を必要とする文書を作らないようにしましょう。
 文書を書くことは、現場で働く職員にとって苦痛な課題です。しかし、いくつかの基本を学ぶことで、必要な文書を作れるようになります。

  1. 定型を守ろう
  2. 反論を意識しよう
  3. 文字数を決めよう

 ◆ 本文はこちら >> 「情報伝達 − わかってもらえる文書作り」

(5) 情報伝達 − 文は短いほどよい

食べやすいのはどちらか

 前回紹介した、必要なことを最小限の文字で伝えることは、短い文章によって実現します。また、目的などの節だけでなく、段落分けをすることも重要です。
 主語と述語が合ってないとかうるさくチェックされたことで、文書嫌いになっていませんか。文章を書く秘訣は、「短い文章ほどよい。しかし、大事なことは抜かさない」の2点を知れば十分です。
 文章の文字数にも、推奨値があります。それを守れば文書作成は簡単です。

  1. 1文は40字まで
  2. 段落は読者への愛情
  3. 読みやすさの評価

 ◆ 本文はこちら >> 「情報伝達 − 文は短いほどよい」

(6) 情報伝達 − 聞き取れるスピーチ

文字スライドの必要条件

 文書でなく、講演で伝える場面でも相手の立場に立った配慮が必要です。パワーポイントを用いた発表で、以前より発表することの敷居が下がりました。しかし、基本ルールを守らないため、聞く側にメッセージが届かないことも見うけられます。
 制限時間内に聞き取れることは限られています、文書発表と同じように、字数制限を考えることが大切です。
 パワーポイントは持ってない方が多いのですが、無料で使える統合ソフト「オープンオフィス・ オルグ」の中にプレゼンテーションソフトがあるので活用しましょう。

  1. スライドを先に考える
  2. 1分間に300字
  3. 間(ま)をとるスピーチ

 ◆ 本文はこちら >> 「情報伝達 − 聞き取れるスピーチ」

(7) 情報伝達 ―― プライバシーを守る

医療記録の匿名化方法

 研修会で発表したり、ニュースの記事を書くときに、患者さんのプライバシーを守ることが大切です。不用意な記述で、患者さんが差別されたり、知らないうちに自分の情報が流されていることに不安を感じさせないようにしましょう。
 一方で、個人情報保護法を表面的に捉えて、過剰反応が見られることは残念です。私たちが発表するのは、専門職として研鑽を深め、医療事故や副作用を防ぐ目的があります。また、患者さんや地域の人に療養や介護の知識を紹介し、医療知識の格差を解消することも大切な仕事です。
 個人情報を取り扱う基本を紹介します。

  1. 本人に確認をしてもらう
  2. 匿名化する
  3. 目的を間違えない

 ◆ 本文はこちら >> 「情報伝達 ―― プライバシーを守る」

(8) 情報収集 ―― 持続可能な記録方法を

医療情報を記録するときの問題点

 個人情報の収集は、治療の重要なステップです。医療現場では、患者を診るよりも書類作成に追われることが悩みとなっています。
 30年前から、POS/SOAP形式などで医療記録の改善をはかる動きがあります。しかし、時間に追われる現場では「前回と同じ」の繰り返しや、個人メモの状態が続いています。SOAP方式は、そんな時間をかけることはムリと敬遠されがちです。
 基本を理解することで、現状の改善をはかれます。ポイントを紹介します。

  1. 記録することが目的ではない
  2. 使える記録を残す
  3. 患者との情報共有へ

 ◆ 本文はこちら >> 「情報収集 ―― 持続可能な記録方法を」

(9) 情報収集 ―― 失敗しない、アンケート調査のコツ

医療情報を記録するときの問題点

 聞き出したい患者さんの情報を質問票で入手することは、仕事の効率化につながります。また、医療活動の現状把握や研究のためにアンケート調査をおこないます。
 忙しい業務の中で、時間と労力を費やした調査データが思うようにまとめられずに困ったことはないでしょうか。他の人が作った調査用紙を参照して利用したり、この機会に聞いておきたいことを全て盛り込んだりすることが、目的にそぐわない調査を実施する原因です。
 あらためて調査法の基本を整理してみましょう。失敗を防ぐコツを紹介します。

  1. 調査の目的を忘れない
  2. マジカルナンバー7
  3. 余分な情報を集めない

 ◆ 本文はこちら >> 「情報収集 ―― 失敗しない、アンケート調査のコツ」

(10) 情報収集 ―― 信頼できる情報を選ぶ

医療情報を記録するときの問題点

 現場でおきたことを整理するとき、標準的な技術や科学知識と比較することが必要になります。インターネットで入手できる情報は玉石が入り交じり、信頼できる情報を探すことは、大変な作業です。
 単純に検索すると、検索の上位には販売業者が作成した情報が多く登場します。信頼できる情報に、少しでも早くたどり着く方法を紹介します。

  1. 検索エンジンのクセを知る
  2. キーワードは書籍に学ぶ
  3. 著者に注目した価値評価

 ◆ 本文はこちら >> 「情報収集 ―― 信頼できる情報を選ぶ」

まとめ ―― 人は誰でも失敗するが、回復できる

医療情報を記録するときの問題点

 医療事故がおきた場合の損害を小さくし、発生頻度を低下させる、リスク管理について、情報技術の面から解説しました。
 情報が正しく評価されず、相手に伝わらないことが、事故の原因としてよく指摘されます。学校教育で十分訓練を受けてこなかった文章作成技術を中心に具体的な対策を紹介してきました。
 事故防止の課題は、個人の知識不足や不注意で片付けられることではなくシステムの問題です。最後に、そのことを紹介します。

  1. 防壁には穴がある
  2. 再発防止に役立つ真相解明を
  3. 二次被害者を出さない

 ◆ 本文はこちら >> 「まとめ ―― 人は誰でも失敗するが、回復できる」


 この連載では、リスクを減らす対応策の基本部分を紹介できました。1年間、ご愛読ありがとうございました。

参考書

  1. 医科学者のための知的活動の技法』、諏訪 邦夫、メディカル・サイエンス・インターナショナル (2008.6) ¥2,625
  2. 心くばりの文章術』、高橋 麻奈、文春新書 (2008.3) ¥746
  3. 説得できるドキュメンテーション200の鉄則』、永山 嘉昭・山崎 紅・黒田 聡、日経BP社 (2005.6) ¥1,680
  4. 論文のレトリック 改訂第2版 医学研究発表のTips & Pitfalls』、広谷 速人、南江堂 (2001.7) ¥3,150
  5. 「分かりやすい文章」の技術』、藤沢 晃治、講談社ブルーバックス (2004.5) ¥840
  6. 「分かりやすい表現」の技術』、藤沢 晃治、講談社ブルーバックス (1999.3) ¥840
  7. 中学生からの作文技術』、本多 勝一、朝日選書 (2004.10) ¥1,260
  8. 説得できるプレゼンの鉄則 PowerPoint徹底活用編』、永山 嘉昭、日経BP社 (2002.1) ¥1,680
  9. PowerPointのやさしい使い方から学会発表まで 改訂第2版』、谷口 武利、羊土社 (2007.3) ¥4,725
  10. POSの基礎と実践 看護記録の刷新をめざして』、日野原 重明 他、医学書院 (1980.11) ¥2,310
  11. 本当に患者の利益になるPOSと薬歴の活用』、上町 亜希子、薬事日報社 (2005.8) ¥2,520
  12. 実践アンケート調査入門』、内田 治・醍醐 朝美、日本経済新聞社 (2001.10) ¥1,680
  13. やさしい調査のコツ 新版』、森 靖雄、大月書店 (2005.3) ¥2,100
  14. 理工系のネット検索術100』、田中 拓也・芦刈 いづみ・飯富 崇生、サイエンス・アイ新書 (2007.1) ¥945
  15. 理系のためのインターネット検索術』、時実 象一、講談社ブルーバックス (2005.2) ¥840
  16. おとなの小論文教室。』、山田 ズーニー、河出文庫 (2009.2) ¥588
  17. 回復力 失敗からの復活』、畑村 洋太郎、講談社現代新書 (2009.1) ¥756

参考サイト

厚生労働省:微量採血のための穿刺器具(針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないもの)に関する報道発表資料
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/05/h0527-2.html
消毒 − 厚生労働省:健康:結核・感染症に関する情報
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou09/01-10.html
ハインリッヒの法則 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%92%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87
全日本民医連:微量採血用穿刺器具の取り扱いに関する厚労省調査および今後の対応についての要望
http://www.min-iren.gr.jp/seimei-kenkai/2008/080704.html
PMDA医療安全情報:微量採血のための穿刺器具の取扱いについて
http://www.info.pmda.go.jp/anzen_pmda/file/iryo_anzen05.pdf
「採血器具問題」で厚労省が対応に苦慮 -医療介護CBニュース-
http://news.cabrain.net/article.do?newsId=16737&freeWordSave=1
厚生労働省:微量採血のための穿刺器具の取扱いに関する調査結果について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/08/h0807-2.html
微量採血のための穿刺器具(針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないもの)の取扱いに関するQ&A
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/08/dl/h0807-2c.pdf" target="_parent
楽園はこちら側: 不正解が多すぎる問題は不適切(微量採血器具問題)
http://georgebest1969.cocolog-nifty.com/blog/2008/08/post_4b26.html
素人のためのコンピュータ講座
http://www.gaiki.net/lib/2007/07122com0.html
文章の書き方・文書の作り方
http://www.gaiki.net/lib/199x/99/99a25wrt2.html
1段落の長さは短めに
http://www.yamanouchi-yri.com/yrihp/techwrt-2-5p/t-2-5abs04a.htm
第1回【演習】MS-Wordの「読みやすさの評価」
http://www.babel.co.jp/mtsg/pcmtws/01/07-1hyouka/hyouka.htm
PowerPointの使い方
http://mis.edu.yamaguchi-u.ac.jp/kaisetu/note_text/6/index.htm
パワーポイント119/パワーポイント使い方講座
http://www.ppt119.com/lesson/index.html
窓の杜 - OpenOffice.org 「Microsoft Office」互換のフリーのオフィス統合環境
http://www.forest.impress.co.jp/lib/offc/document/offcsuite/openoffice.html
間をとることと、語尾をはっきりさせること - 聴くビジネス書トークス編集長の日記
http://d.hatena.ne.jp/talksnet/20080508
「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」等について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/12/h1227-6.html
【内閣府】個人情報保護トップページ
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/kojin/index.html
医療情報の電子化とプライバシー再考
http://www.fine.bun.kyoto-u.ac.jp/tr4/kurata.pdf
個人情報
http://www.livingroom.ne.jp/r/personaldata.htm
医学書院/週刊医学界新聞 〔鼎談〕誰がために記録はある(日野原重明,児玉安司,阿部俊子)
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2005dir/n2653dir/n2653_01.htm
日本POS医療学会: eラーニング
http://www.pos.gr.jp/elearning.htm
本当に患者の利益になるPOSと薬歴の活用
http://homepage3.nifty.com/akika-pos-yakuzaishi/
社会調査工房オンライン
http://kccn.konan-u.ac.jp/sociology/research/
Passion For The Future: 記憶のマジックナンバー7±2とドメイン名の考え方
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000330.html
一段落は4行に収める 【マジカルナンバー4±1】 / にじ魂
http://0dt.org/000742.html
こうやって選ぶ、検索キーワード!
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