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くらしと健康 連載コラム
藤竿伊知郎 (薬剤師・外苑企画商事 薬剤情報室)
2003年12月
最近売り上げを伸ばしているものに、コエンザイムQ10があります。「疲れにくくなる」「抗酸化作用がある」としてマスコミに大きく取り上げられています。
コエンザイムQ10は、細胞内で糖を燃焼させてエネルギーを作り出すときに必要な、補酵素です。ビタミンQなどとよんでいる宣伝もありますが、体内で合成できるため、食物から補給しなければいけないビタミンには分類されません。
日本では、1970年代から心臓の機能が衰えたときの薬として使用されてきました。しかし、日本以外の国では使われることのない「ローカル・ドラッグ」です。十分な治療効果がないことから、日本でも最近は使用されなくなっています。
このサプリメントも、2001年4月、「食薬区分」が見直されたことで、米国からブームが輸入されたものです。ブームの推進役は、原材料を生産している日本の製薬企業です。
生化学的なメカニズムでみると、大事な成分です。けれども、試験管内や実験動物でのデータはありますが、臨床的な有効性を十分に証明されていません。臨床試験の文献はたくさんありますが、きちんとした評価に値するものではありません。
また、サプリメントの宣伝では、酸化ストレスによるガンなどの健康障害をたくさんあげてみたり、「老化防止」「美容」「ダイエット」など万能性をうたっています。「活性酸素」の危険性を強調するのは、怪しいサプリメントの特徴です。
年齢とともに体内のコエンザイムQ10が減っていますが、特定成分だけを補充することが必要だという証明はありません。たくさんの種類の食品をとることで、バランスのよい食事を充実することが、この場合も原則です。
コエンザイムQ10は、医薬品の場合でも副作用は少なく、これによる健康被害は少ないと考えます。しかし、有効性の実証されていない物質を大量に販売することの倫理性が問われています。
医薬品の再評価と併せて、製薬企業の方できちんとした臨床データが出されるまでは、使用を控えることがよいでしょう。
2004年2月
利用が増えているサプリメントの一つに、コラーゲンがあります。みずみずしい肌を保ち、関節の痛みにも有効として宣伝されています。本当に効果が期待できるのでしょうか?
コラーゲンは丈夫な繊維状のタンパク質で、皮膚・骨・軟骨・腱などの重要な構成部品となっています。動物の体には大変多く含まれており、体内のタンパク質の3分の1がコラーゲンです。体の新陳代謝にともない、つねに分解と新生を繰り返しています。
コラーゲン自体は、食べても消化・吸収されませんが、それを水とともに長時間加熱してできたゼラチンは、ゼリーの食材として親しまれています。サプリメントとして売られているコラーゲンも、消化できるように加工したものです。
食べるコラーゲンは、他のタンパク質と同じように消化され、アミノ酸となって腸管から吸収されます。そのアミノ酸を原料として、コラーゲンは新しく合成されます。ただし、食べたコラーゲンからのアミノ酸が、特別扱いされることはありません。むしろ、原料として再利用できないアミノ酸もコラーゲンには含まれています。
コラーゲンを構成するアミノ酸は、種類の偏りが大きく、必須アミノ酸の含量も少ないため、良質なタンパク源とはいえません。食肉として利用する部分にコラーゲンはあまり多く含まれていませんが、日常の食事でタンパク質の摂取が不足することはありません。
コラーゲンが果たす役割は重要ですが、その成分を食べて補充することの根拠はありません。動物実験のデータは、食事中のタンパク質量を制限した場合についてのものです。まして、老化にともなう体の変化を押しとどめるのに役立つという、データもありません。
食べるだけで、体内のコラーゲンが更新されるかのようなイメージをつくって、販売されていることは問題です。高価なゼラチンに、お金を払う必要はありません。
健康なコラーゲンを保つには、植物性タンパクを含めて、バランスのよい食事をとることが原則です。また、適度な運動をしないと、骨の量は保てません。新陳代謝を進めるには、食事とともに運動面も考えた生活改善が必要でしょう。
2004年3月
プロポリスは、アガリクスと並んで抗ガン作用が話題になっているものです。プロポリスは、ミツバチが樹液を集めてつくったワックスと樹脂の固まりです。市販されているものは、アルコールなどで成分を抽出したエキスですが、錠剤などに成型したものもあります。
抗菌作用、消炎作用がある植物の製油成分を含むため、ヨーロッパでは外用剤として民間療法に使われてきました。日本で商品化され、エキスを内服するようになったのは、1980年代後半からのことです。
ガン患者の体験談などを中心として、難病に効くとする書籍がブームをつくり出しています。薬効を研究する動物実験などの結果は、多数報告されています。しかし、ヒトの臨床に使用した信頼できる研究論文は見あたりません。
「ガンが治ったヒト」が「使ったけれど治らなかったヒト」と比べて、十分な割合でいるということは、示されていません。また、免疫機能を調整するという宣伝については、想像の範囲でしかない理屈です。
原料となった植物の違いや採取した時期により成分は大きく変わるにもかかわらず、基準もできていません。
副作用がないかのような宣伝もされていますが、化粧品の香料にかぶれる方は、プロポリスでアレルギーを起こす可能性があります。
薬効の研究については、これから進んでいくことを期待しています。しかし、現時点でプロポリスを飲用することは、健康に良さそうなものをとっていることで、闘病意欲を高める効果しか期待できないと、考えています。
試してみることで、プラスの効果が現れることがあればよいのですが、効果が感じられない場合は止めた方がよいでしょう。より健康になりたいという目的で利用するには、1ヶ月分で1万円を超える価格は高すぎると考えます。
ここでも、難病の方のワラにもすがりたい気持ちに便乗して、高価な商品を販売していることは大きな問題です。
2004年4月
コンピュータなどの画面表示を見る時間が増え、視力の衰えを感じることがありませんか。疲れた目にブルーベリーが効くと宣伝されています。
ブルーベリーは、ツツジ科の低木の果実で、ジャムの原料として利用がされてきました。北欧やカナダなどの涼しい地方が原産ですが、暖かい土地でも栽培されるようになり、手軽に手にはいるようになりました。野生種はビルベリーと呼ばれています。
果皮の中に入っている青紫色の色素、アントシアニンが有効とされています。この色素は、アサガオなどの花やリンゴ・ブドウなど果皮に広く含まれています。また、小豆・赤ワイン・黒豆・紅イモなど、果物以外の食品からもとることが可能です。
アントシアニンは、ポリフェノールの仲間です。その薬理効果としては、強い「抗酸化作用」があるとされています。ほうれん草の2倍ほどの効果があるようです。
目によい効果として、光を感じる網膜中の感光物質「ロドプシン」の再合成を促進すると、宣伝では言われています。第2次世界大戦中、英国のパイロットが使用したという逸話が宣伝の中で登場しますが、出典が明らかでなく、その真偽は確認できません
ヨーロッパでは1960年代から研究がおこなわれており、一定の品質のものが医薬品として使われる国もあります。網膜症、近視、夜盲症状の眼科領域とともに、網細血管を強める薬効を持つとされています。
アントシアニンとして1日120〜160mgの服用量で効果があるとしています。即効性があるようなので、数日間で効果が実感できないようであれば、アントシアニンが有効なものとは違うタイプの眼精疲労と考えられます。
アントシアニンなどのフラボノイドの薬効については、まだ研究途上の状態です。宣伝は鵜呑みにせずほどほどにつきあうのがよいと思います。
2004年5月
健康食品市場の上位を占めている商品の中で、クロレラは長い寿命を保っています。1960年代半ばから栄養補給を目的として販売されていますが、その時代の健康キーワードをたくみに取り入れた「効能」をうたわれてきました。最近では「環境ホルモン排出機能」を打ち出しています。
クロレラは、淡水中に自生する単細胞の緑藻です。繁殖力が旺盛でタンパク質やミネラルが豊富なので、食料源として1940年代ごろから注目されました。丈夫な細胞壁に包まれており、そのままでは消化吸収が困難なため、食料としての利用はされていません。
サプリメントとしては、細胞壁を破砕したものが、錠剤や液剤として商品化されています。
1970年代末から新聞折り込みチラシ商法が始まり、万病に効くとして宣伝することで問題を引き起こしてきました。「生命力」「神秘性」をイメージする宣伝と、医師の治験報告でなく患者の「体験談」をもとに販売を勧めています。
クロレラには、普通の栄養素は多く含まれていますが、治療上に有効な成分が含まれている根拠はありません。
副作用がないと宣伝していますが、国民生活センターに寄せられる健康被害報告のトップを占めているのはクロレラです。葉緑素が製造過程で分解されたものが、発疹といった光過敏症を引き起こすことで知られています。他に、下痢・吐き気などの消化器症状を訴える苦情もあります。
ビタミンKをたくさん含むことから、ワーファリンを治療で使っている患者さんにとっては、効能を損なうために併用してはいけないものです。
アミノ酸の補給源としては、製造に手間がかかる分だけ割高についています。栄養補給という点では、現時点で、わざわざ購入することはないものと考えます。
まじめに、サプリメントとしての効用を研究している会社もありますが、万能だと宣伝している商品・研究会には近づかない方がよいようです。
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