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第4回 全日本民医連
副作用・新薬モニター交流集会の報告

1999.9.9〜10大阪府・大阪市

 「第4回全日本民医連副作用・新薬モニター交流集会」は、1999年9月9、10日の二日間、大阪市の「プラザホテル」で開かれました。参加者は全国36県連88法人から137人と、全日本民医連から14人の合計151人。この交流集会は、21年の歴史をもつ副作用モニターと、今回が最初の交流となる新薬モニターの交流集会で、「モニター活動を医療活動に生かそう」をスローガンに活発な意見交換を行いました。

問題提起

1. 交流集会の目的

 第4回副作用・新薬モニター交流集会では、1)医薬品の有効性・安全性をめぐる情勢の全国的な把握と学習、2)私たちの薬剤評価活動の到達点の確認、3)患者と民医連医療を守る上で臨床に役立つ情報活動の方向性の交流、を行います。
 問題提起では、現在の到達点の確認をすすめ、医薬品をめぐる情勢の把握の中で、私たちのモニターの今後の方向性と具体的なとりくみの提起を行います。
 この提起のスローガンは「モニターを医療活動に生かそう」ですが、このスローガンには、モニター活動のとりくみを従来の「モニター」から大きく医療活動全体の中でのとりくみとして発展させていくことに焦点をあてています。モニターを医療活動に生かしていく上で、「薬事委員会の発展のために」を具体化することが重要です。
 私たちが患者さんや文献情報などから獲得した情報を医療現場で活用するためには、薬事委員会での検討やチーム医療の中での活用を積極的に行うことが大切です。
 こうした医療現場でのモニターの成果が生かされることは、逆にモニター活動をさらにおしすすめていくことにもなります。
 今回の交流会では、こうした「モニターを医療活動に生かそう」という観点から薬剤師が薬物療法にどうかかわり、医療現場に生かすことができたか(ファーマシューティカルケア:医療実践)も2日目に交流します。
 また、医薬品評価のためのテキストを配布し、自分たちで医薬品を評価し、医療現場に生かすことを提起していきます。
 さらに、副作用モニターの変遷をわかりやすく図表化した内容や、今回第1回集計となる新薬モニターの報告も行います。
 今回の交流会でぜひみなさんのモニター活動を患者を軸に見直していただき、旺盛にモニター活動にとりくみ、医療チームで活用していく契機になることを期待しています。

2. モニター活動の到達点と課題

(1)副作用モニター21年間の歴史

 全日本民医連副作用モニター活動は「同じ副作用を二度と引き起こさない」という目的にはじまり、1977年以来とりくみを続けています。
 1991年7月には第1回副作用モニター員交流集会が開催され、増大する情報処理のために副作用情報のコンピューター入力が全国的に開始されました。同時に、副作用モニター員登録の整備が開始されました。
 翌年から、情報の活用をはかるため、副作用モニター実務者会議報告書を副作用モニター員にたいして直接配布をはじめています。
 この年の10月からは、「民医連医療」誌に掲載される半期ごとのまとめに、情報の速報性を高めるために「民医連副作用モニター情報」として民医連新聞の誌面を通じて公開がはじっています。
 1995年7月には第2回交流集会が開かれ、モニター項目の整備と報告様式の整備がすすめられました。これ以降、パソコン通信ネットワークを利用した双方向の情報交換が実現し、データベースの利用もすすみました。また、経過を含めた副作用症例報告も増加しています。
 第3回交流集会は1997年7月に開催されました。あらためて情報ネットワークの重要性を強調するとともに、情報評価のレベルアップをめざしました。
 モニター制度開始20年を経て、年間4000例以上の副作用症例と、3万件近い副作用症例のデータベースをもつまでに前進してきました。

(2)現場の治療に密着した実践的なモニター活動

 私たちの副作用モニターは、個々の院所で集約される独立副作用モニターです。患者の生活、職業、地域に根ざした視点で医療現場に密着してモニタリングされています。
 因果関係が確立しなくても、危険な有害事象の発生にたいして警戒を強めることができます。医学的に軽微ではあるが、患者のQOLを大きく下げるような副作用も多く集約されてきます。これらを治療の中に速やかに反映できます。
 1999年6月より厚生省副作用モニターのデータベースが公開されましたが、以下の点で民医連副作用モニターがはたす役割は大きいものがあります。
 1)厚生省副作用モニターは企業報告が圧倒的であり、メーカーバイアスを免れません。
 2)副作用の要約情報が公開されただけでは、医療現場での副作用防止に活用できません。

(3)スタートしたばかりの新薬モニター活動

 新薬モニターは、1997年の第3回副作用モニター員交流集会で提起され、新薬モニター員の登録を1998年3月にスタートしました。
 新薬モニターは、新薬の採用時評価や事前評価、さらには使用後評価など、薬事委員会等で行われている有効性・安全性・経済性から見た医薬品の判断をモニターし、集積をすすめています。
 このモニターの特徴は、個々の判断の集積がすすむことでモニターに参加している院所が評価判断を参考にできるとともに、さらに判断レベルを引き上げていくことにつながります。こうした個々の判断の集約がすすめられていくことで、1)薬事委員会の薬品評価をより客観的なレベルへ引き上げ、2)薬品の問題点(ネガティブデータ)について集積され、明らかにされていきます。
 しかし、今回までのモニター報告数が14件であることから、新薬モニターの定着とモニター参加の促進、報告の徹底など、基本的な整備がすすめられる必要があります。

3. 医薬品をめぐる情勢

 前回交流集会後の国民から見た医薬品をめぐる状況の変化を、6点に沿って確認します。

(1)薬剤一部負担金の導入と患者負担の増加

 一つ目は、薬剤料の二重負担が1997年9月に導入され、多くの国民・患者には「金の切れ目が命の切れ目」という悲惨な状況が全国であいついで引き起こされたことです。
 この二重負担にたいして国民的な反撃がすすみ、高齢者については1999年7月から撤回させることになりました。また、医薬品費の患者負担を前面に押し出した「薬剤定価・給付基準額制」は、事実上白紙に戻されることが1999年4月に確認されました。しかし、自民党とその流れに組する政治勢力は、医薬品費の定率負担など、あくまでも国民・患者負担をすすめようとしており、たたかいの構築が急務です。

(2)薬価制度の見直しの動き

 二つ目は、健康保険の薬価制度改悪をめざした動きが進行しました。世界的に見て高すぎる新薬価格には手をつけず、薬価差益にたいする攻撃を繰り返し行ってきました。1996年から3年連続の薬価改定により、医療機関の得る薬価差益は大きく減少しました。一方で、製薬業界の大手企業は収益を大幅に伸張させています。
 全日本民医連は、国民医療費に占める医薬品費を引き下げるには新薬を中心とした薬価の見直しが重要であることを、必要な医薬品を適正な薬価で保障するという観点から提言を行いました。
 医薬品として必要な製品が不採算で製造中止に陥る一方で、新薬を中心とした医薬品群が医薬品市場を蝕んでいる事態とたたかうことはいっそう大切になっています。医療経済の効率的な再分配が求められる中で、世界的に見て高すぎる日本の新薬の価格を見直す動きも一部ではじまっていますが、この動きをさらに前進させていくことが大切です。
 医薬品市場の歪みは、薬価差益が最大の問題ではなく、高薬価にあることをしっかりと見すえていきましょう。

(3)新薬開発体制の整備

 三つ目は、国をあげての医薬品開発に大きく動こうとしていることです。
 厚生省は2000年をめざし、ICH(日米欧三極による医薬品治験に関する標準化)に準拠した医薬品許認可体制をすすめています。ICH合意は、治験水準の引き上げという点では従来の日本型治験を見直していくことになります。
 しかし、「2010年には日本製薬企業は世界をリードする」(1999年3月、日本薬学会での厚生省大臣官房土井審議官講演)でも示されるように、政府・製薬企業のねらいは世界市場を展望した医薬品産業育成にほかなりません。1997年4月の薬事三法(薬事法・医薬品機構法・薬剤師法)改正が施行されましたが、この法律により医薬品開発支援行政が大きく進展しています。治験各段階での相談や承認前相談などを緻密にすすめ、申請から1年以内での承認が可能なように、中央薬事審議会・審査センター・医薬品機構の承認業務の効率化を、省をあげて整備を開始しました。
 1998年7月から海外治験データをICHにもとづき使用し(ブリッジングスタディ)、2000年段階での承認期間(タイムクロック)を12カ月に短縮することをめざしています。これにより、バイアグラやニコチネルTTSなどは海外治験を申請資料として使用し、製造承認が行われています。
 1999年5月の日米首脳会議で確認された日米第2回共同現状報告では、医薬品・医療用具分野の規制緩和事項として治験・承認などがあらためて明記されています。ここでは、承認審査を担当する中央薬事審議会特別部会の年4回開催を年8回開催に切り替えるとしており、年8回の新薬収載に道を開きます。
 医薬品の承認が申請から1年以内になろうとする中で、2000年4月から治験データの公表をせずに治験概要のみの開示とする動きがすすみ、入手できる新薬情報が後退することについても、薬害・副作用被害を防止する観点から危惧の声が出ています。

(4)薬効再評価の動き

 四つ目は、既存の医薬品にたいする再評価がすすめられていることです。
 かねてから問題視されていた脳代謝改善剤の薬価削除がされました。また、脳循環改善剤は6成分が再評価申請にもとづく治験を実施し、2001年には再評価結果が出されます。同時に、16成分1配合剤が簡易申請にもとづく適応症削除が6月29日に行われました。
 私たちは、再評価の動きは評価しつつも、こうした医薬品を認可した国・厚生省の責任を追及していきます。また、現在でも医薬品市場に占めているローカルドラッグやゾロ新などにたいして、国民医療を守る観点から薬価の適正化や薬価削除を求めることが大切です。
 医薬品として価値があるのかどうかの評価を急ぎ、必要な医薬品の適応拡大と保険での使用(小児用バファリンの血小板凝集抑制など)を認めさせることと、不必要な医薬品を削除させる運動が必要です。
 また、民医連以外でも医薬品の選択をすすめるとりくみが試みられつつあります。大阪府保険医協会とTIPのグループは、オーストラリアの「医薬品集」の翻訳を通じて、エッセンシャルドラッグリスト(必須薬品一覧表)づくりにとりくんでいます。

(5)医薬品規制緩和の動き

 五つ目は、医薬品の規制緩和の進行です。
 私たちは、「国民・患者にとって医薬品規制緩和が必要なのか」という観点からこうした動きを見ておくことが必要です。
 医薬品のカテゴリーも大きく変化させています。H2ブロッカーのように、効果・副作用とも強い薬剤がOTCとして販売されることで、たくさんの健康被害が出る可能性が出てきています。企業・行政側と市民・医療関係者側との間で利用できる情報に大きな格差がある中で、医薬品カテゴリーをなし崩しで変えてしまうことは薬務行政の大きな後退です。
 また、1999年4月より15製品群が医薬品から医薬部外品へ移行し、ドリンク剤が清涼飲料水と同様に自動販売機やコンビニエンスストアで売られる状況になっています。さらに、1999年1月の日米MOSS協議フォローアップ会議では、米国の市場開放要求となった補助栄養食品としてビタミン剤の規制緩和が検討されています。
 まさに、「患者を病院・薬局から眺めていても副作用被害を防止できない」状況が進行しています。医薬品区分の見直しの中で市民が薬局と医療機関へ期待する役割は、マスコミを使ったメーカーの一方的な商品宣伝から、市民を守る情報発信のセンターとして新たな役割が求められています。

(6)人権重視と情報公開の動き

 六つ目は、人権重視の流れが確実に医療を動かそうとしていることです。
 この動きについては、国がすすめている添付文書・緊急安全性情報・副作用が疑われる症例情報が、1999年5月31日から厚生省医薬安全局審査管理課の元で医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構によってインターネット上で公開されているように、厚生省の手元にある情報の公開がすすめられています。
 審査概要報告書についても、1999年9月から添付文書情報と統合して公開されています。
 こうした情報公開の動きは、情報を広く国民に知らせる点では一歩前進ですが、国民にとって必要な情報を厚生省が責任をもって構築していく点では非常に不十分です。
 たとえば、科学的根拠にもとづく医療(EBM)が医療の中で重視されようとしていますが、こうした日本の医療関係者や国民・患者が参加して専門医とともに構築していく保障が弱いままとなっています。とくにEBMの基礎資料となる治験情報の全面的な開示という点では、「新薬承認情報集」(治験要旨集と審査報告書を一体化)で2000年4月から代用されるために、むしろ後退してしまいます。
 また、カルテ開示についての見解が全日本民医連から発表されました。私たちは、積極的なカルテ開示のとりくみを今後もすすめていくことになります。
 しかし、カルテ開示を国がすすめようとするときに大切な点は、現行の診療報酬体系では医療現場にカルテ開示の義務を全面的に押しつけたまま、一方で医療・福祉の削減を政策的にすすめるという点で、国のカルテ開示の責任がはたされていない状況が明らかにされています。
 このように、国民・患者の人権重視の流れは当然おしすすめていくことが大切ですが、何がこの流れをおしとどめようとしているのかという解明と、国民・患者との共同のとりくみとしてきっちりと私たちの医療活動上に位置づけることが大切です。

(7)2000年に向けた国民・制度・医療機関への攻撃をはねかえそう

 前述した医薬品にかかわる情勢の動きは、国民の医療・福祉全般にたいする攻撃の一部にすぎません。(社保学習ブックレット『医療・年金・福祉のねこそぎ改悪許すな』を参照)
 自民党とその流れに組する政治勢力は新薬価制度の国民負担をねらうだけでなく、診療報酬体系の包括化や200床以上での外来医療の制限など、医療供給体制にたいする攻撃をねらっています。さらに、老人保健制度を改悪し、「高齢者医療保険制度」を準備し、大幅な負担を押しつけようとしています。
 この医療・福祉への総攻撃は、憲法25条で定められている「国民は誰もが健康で文化的な生活をする権利があり、国はそれを保障する」という国民のいのちと暮らしそのものをおしつぶそうとすることです。国や地方自治体が保障すべき社会保障から、「自助と相互扶助」の制度へ変質させられようとしています。私たちは、医療と福祉を守る立場から、こうした動きをやめさせる行動を医薬品分野だけでなくとりくむことが大切です。

4. 総合的な医薬品モニターに向けて医薬品評価活動を充実しよう

 私たちは医薬品の評価を、安全性という切り口から副作用モニターを発展させ、経済性という切り口から医薬品評価価格モニターを広げ、医薬品としての判断という切り口から新薬モニターへ展開してきました。
 さらに、各地の民医連で医薬品費引き下げの努力と患者負担の軽減という観点から後発品の活用によりすすめられました。この動きに対応して私たちはジェネリックデータベース(民医連版オレンジブック)を完成させ、その活用が開始されようとしています。
 こうした個々のモニターやとりくみは、薬事委員会や民主的集団医療の中で検討され、医薬品選択の方向性や患者指導に生かされる時に、民医連の医療活動の大きな武器としてはじめて活用されます。
 薬害・副作用被害の歴史は、私たち国民一人一人の命を後景に押しやり、医薬品の大量宣伝・大量販売による利潤追求の結果引き起こされてきており、これとのたたかいを組み立てる上で「薬事委員会の発展のために」(1999年4月)を学び、具体化をしていきましょう。

(1)医薬品モニターの基本的な視点

 氾濫する医薬品情報の中で、必要な情報を確保することが大切です。とくに、市販後の臨床情報は、製薬企業の市販後調査結果が出るまでに何年も経過してしまいます。
 私たちがとりくむ医薬品モニターは、積極的にみずからの症例を蓄積していく結果にほかなりません。医薬品を採用し、患者さんに投与する際に、治療困難な症例や重篤な有害事象の発生とその克服などの症例の蓄積をすすめていきましょう。
 副作用症例などの情報をデータベースとして標準化し、そのレベルを向上させていくとりくみの方向性をしっかりと確認した上で現在のモニターを積み上げていきましょう。
 日本有数の医療機関の組織として、民医連の優位性は、組織的利点を生かしたとりくみとその情報の共有化が重要です。
 モニター活動とその結果を院所の医療活動に生かす努力は、それぞれの院所での医療レベルを日本の医学会の中でも高い水準に保ってきました。副作用モニターをもとにした各院所の薬剤師による学会発表や病院薬剤師会での発表は、大きな注目を集めてきました。
 また、現在では広く認知されているACE阻害薬による咳やカルシウム拮抗薬による夜間頻尿なども、民医連では添付文書に記載される以前から集約され、情報提供することができました。市場に出てから発見される軽微な副作用は、メーカーには集約され難いことが多いようです。
 こうした副作用情報を、県連単位や法人単位で医薬品の採用取り消しや副作用カード・服薬カードなどの患者携帯をすすめ、副作用回避の努力と実績を積み上げています。

(2)全職種が参加するモニター制度へ

 現在、副作用報告を提出する職種はほとんど薬剤師となっています。薬剤師はひきつづき自分たちの職能をかけた大切な活動として副作用モニター活動の先頭に立ちます。
 民医連は患者を中心としたチーム医療を推進しており、医師をはじめとして看護の目、事務の目など複数の職種がその専門的視点からモニターを行い、治療の改善に反映させるように活動を発展させなければなりません。造影剤のショックなどの副作用は、放射線技師の観察が必要です。病棟での投薬で患者に起こった副作用に、もっとも早く気づくのは看護婦です。
 一方、新薬モニターでは、まさに民主的集団医療の結実した内容が集約されていくことが大切です。この点では、文献評価や薬事委員会での検討に加えて、使用後評価についても新薬モニターを強化していくことが大切です。ノスカールなどの副作用による死亡例などに象徴されるように、新薬評価にもとづく患者管理と有害事象の発生時の回避を行う上で、医師・薬剤師など医療チーム全体での新薬の把握と患者管理をめざしましょう。

(3)速報性のあるモニター情報の伝達

 前述のように、副作用モニターでは民医連では現場からの生の情報が集約されることから、より早い時点で有害事象(Adverse Event)を発見できる可能性があります。しかし、現在は全日本民医連へ報告されるまでに院所での評価に時間がかかり、半年、1年遅れで集約されているのが実態です。
 副作用報告・有害事象報告は、月々の単位に集約を早めなければなりません。ソリブジン事件のとき、死亡例が病院から報告されたあと、メーカーが情報伝達を遅らせていた数週間の間にさらに多くの尊い命が失われました。
 未知で重篤な有害事象を体験したときは、因果関係の確認を待つことなく、1カ月以内に全日本民医連に簡易報告をあげるようにし、その情報を全国の院所に速やかに届けられるように私たちのネットワークを積極的に運用していくとりくみが求められています。
 新薬モニターは、現在の到達では速報が出せる状況にはいたっていません。みなさんの新薬モニターのとりくみが、新薬情報として速報できる段階へ移行できる時期を決定的にします。

(4)すべての県連でモニター活動を発展させよう

 副作用モニター、新薬モニターともに大きな成果を上げてきましたが、前進している法人・県連では、集団的な位置づけと個人力量の向上を常に積み上げてきています。
 副作用モニターでは、県連的に副作用モニターにとりくむことが薬剤師部会レベルとして定着してきており、現在21県連まで整備がすすめられています。県連としてとりくみを構築し、分析や検討を行っている県連も前進しています。(北海道、千葉、埼玉、東京、神奈川、大阪、兵庫、福岡、熊本など)
 一方、1998年度は24県から報告がありましたが、約半数の県からしか報告がないことは問題です。また、過去一度も報告のないところが6県(秋田、山形、栃木、山梨、滋賀、宮崎)あります。新たな地協単位のとりくみを生かし、副作用モニター活動を全県連で再度立ち上げ、広めていかなくてはなりません。個々の薬剤師の活動から、院所の業務として定着させることも重要な課題です。
 現在、副作用モニター活動は年間4500件の報告を結集するまでになりました。この20年間でモニター活動は着実に前進してきました。しかし、その活動はいまだ民医連の全院所の活動とはなっていません。患者に目を向けた副作用モニター活動により、民医連医療の視点で情報作成を行うこと、医療費抑制策に偏った厚生省の掲げる適正使用ではなく、患者の側に立った適正使用がすすむように地協での指導を強めます。
 新薬モニターは、21県連から37の薬事委員会等のモニター登録が行われています。また、県連的な新薬評価のとりくみに着手しているか、準備している県連は10県連となっています。県連的な整備をすすめる上では、各法人薬事委員会との連携する県連薬事委員会のとりくみを強めていくことも含めた組織的整備が大切になります。
 現在、県連的な薬事委員会は21県連まで広がっています。この県連的な各委員会の発展は、民医連組織としての優位性を発揮する上でも大切なとりくみです。

(5)医療現場で報告しやすいモニターへ

 今回の交流集会前のアンケートでは、当然のことですが、ほぼすべての院所で副作用を経験していました。
 しかし、年間1万件以上の副作用を各院所が経験していることが予想されるにもかかわらず、全日本民医連に報告されているのは半数以下の件数となっています。また、厚生省への報告はさらにその5分の1でした。
 先ごろ行ったアンケートでは、報告を困難にしている要因として、1)時間がない、2)データがそろわず記入できない、などの声がありました。報告用紙の項目すべて記入しないと報告できないわけではありません。必須項目のみでの報告も可能です。
 また今後、厚生省のモニター報告書との調整を含めて、必須項目の確認とそれにもとづく報告用紙の改定を行う方向で検討を開始します。院所でつかんでいる事象を、できるだけ多く報告してもらう方策が必要です。

(6)リスク管理の考え方を導入しよう

 重篤な副作用は症例をつける、軽微な副作用は必須項目のみとするなどの情報の取扱い密度を変えて、業務の合理化をはかりながらモニター活動の量的拡大をめざします。報告のすそ野を広げながら、注目の新薬や重篤な有害事象などについての重点(強化)モニタリングをすすめましょう。
 「薬剤Aで肝炎の報告が多い。PMSでは肝マーカーを測定を必ず入れることで、全国的にも評価してもらう」といったように、課題を設定して重点的モニターを行っていくことがこれから求められています。
 新薬モニターでは、使用時での有効性・安全性管理ができるようにとりくみをしていくことです。リスクファクターなどに留意した投与や、副作用モニターと連携した安全確保のとりくみとして位置づけることが大切です。

(7)臨床現場への情報フィードバック

 処方を行う医師に情報をフィードバックし、安全性情報を診療の場で活用してもらうとりくみを強めましょう。このとりくみをすすめる上で薬剤師のとりくみができるように、県連・法人などでも工夫をこらしましょう。
 先のアンケートでは、回答院所で読了も高率になる傾向はありますが、「民医連医療」「民医連新聞」記事の読了状況は8割と活用がすすんでいました。もっとも活用しやすい情報の伝達手段として重要です。さらに薬剤検討委員会で、医師や看護婦、薬剤師も含めてすべての職種へ医療現場で役立つ情報を発信するために検討し、各院所、各職種でのいっそうの活用がすすむとりくみにします。またMD―NET、副作用データベースの活用は10%程度でした。
 各院所において民医連副作用データベースのデータを検索ができるようにしていきます。「過去、このような副作用が民医連副作用モニターでは報告されているか?」などの医師、看護婦等の問い合わせに各院所・県連の副作用モニター委員会が答えられるように整備をすすめましょう。また、臨床でも利用価値のあるモニターデータベースづくりとして、症例報告がある重症度の高いモニター報告については、サマリーレコードだけでなく臨床経過を示す図表など添付されている詳細データをデータベースに含める方向で整備します。過去のまとめ、民医連記事等もデータベース化し、インターネット上での検索等もできるよう整備を開始します。
 これらの活動を通して、副作用モニターのよりいっそうの利用を促進します。

(8)民医連副作用・新薬モニターの当面の課題

 民医連としての独自性をもったモニター活動をさらに発展させるためには、以下のような具体的課題にとりくむ必要があります。
 ぜひみなさんに整備をしてほしい課題は、以下のとおりです。
*県連的な検討整備の課題
*副作用モニターの課題
*新薬モニターの課題
*両モニター共通の課題
 薬剤検討委員会での整備課題は、以下のとおりです。

5. おわりに

 全日本民医連モニター制度は、私たちの医療活動が患者・共同組織との共同のとりくみと民主的集団医療のとりくみの中で育まれ、発展してきました。
 情勢を学ぶ中で私たちのとりくみと到達に確信をもつとともに、すべての民医連施設でモニター活動が医療活動の前進とともに、さらにとりくまれていくことを訴えます。
 さらに、医薬品をめぐるとりくみは今日の国民医療を守り、国民・患者の命を守るとりくみとして、患者・共同組織とのとりくみへ発展させていきましょう。


まとめ

1. 概要

 1999年9月9日〜10日、大阪市の「プラザ大阪」において、第4回副作用・新薬モニター交流集会が開催された。
 全国36県連、88法人から137名の薬剤師の参加と、薬剤検討委員も含め151名の大規模な交流集会となった。
 21年の歴史をもつ副作用モニターと、今回、最初の集約となる新薬モニターの交流が、「モニター活動を医療活動に生かそう」をスローガンに活発に行われた。

2. 集会の準備にあたって

 薬剤検討委員会は、「問題提起」をはじめとして交流集会の成功をめざすとともに、集会参加後も医療現場で実践的に活用できる資料の作成をめざした。

 副作用モニターでは、この間の歴史的なデータの集約を行った。
 この集約からは、1970年代後半から副作用モニター報告県連がほとんど変化していないことが確認され、当日参加したすべての県連からの報告があらためて強調された。

 副作用モニターに関する施設アンケートでは、「民医連医療」の副作用モニター半期報告ならびに「民医連新聞」の副作用モニター情報がアンケート報告施設についてはよく活用されていることが判明した。一方、副作用モニター報告が困難な理由として、副作用モニター報告書の記載方法や報告方法について「敷居が高い」と感じているため、報告を躊躇していることが明らかとなった。この状況は、全国の薬剤師総数が1800人を超え、若い薬剤師が急激に増え、「副作用モニター制度」の職場内での申し送りや訓練が追いつかなくなっていることが大きな要因といえる。今回、副作用モニターについての基本的な運用方法についてもあらためて参加者に理解してもらうため、アンケートのまとめの中で疑問についてもきっちりと返すことを行った。
 新薬モニターでは、第1回の集約結果を返すとともに医薬品評価テキストを配布し、参加者の医薬品評価へのとりくみの推進をはかった。

 「薬事委員会の発展のために」は、スローガンを具体化する上での指針となる文書であり、資料に加えた。
 また、副作用モニター員登録状況と新薬モニター登録委員会状況を配布し、登録の更新と新規登録がすすむように資料に加えた。

 以上のように、今回の交流集会は、現在の到達点と今後のとりくみをすすめる上で土台となる資料が配布できた。

3. 当日の内容

 当初120名規模の交流集会として準備をしてきたが、151名規模となり、会場の使用に無理が生じたことが問題点として残された。また、会場の関係で参加申し込みにたいしてお断りをせざるえなかった。分散会ごとの収容人数との関係で新薬モニター分散会が一カ所にならざるをえなかったため、当日の運営に困難をきたした。

 まず、今中理事が情勢報告。とくに全国で不況・リストラの風が吹き荒れ、新自由主義の下で国民切り捨ての政治とその中で苦しむ国民の状況が報告された。この中で、民医連がきびしい情勢に立ち向かううえで、地域・患者とともに国民医療や福祉・介護の分野に向けて転換をすすめようとしていることが強調された。
 ついで、東久保委員長から問題提起が報告された。この問題提起は、従来のモニター活動の枠を越え、医療活動を正面にとらえていくことを強調していることが報告され、情勢を学ぶことと医療活動にどう生かすかについて報告が行われた。

 1日目の分散会は、9つの副作用モニター分散会と1つの新薬モニター分散会に分かれて、3時間半にわたり行われた。
 副作用モニター分散会は若い薬剤師が多く、副作用モニターを医療に生かすという点で正面から議論しきれない部分もあったが、あらためて民医連の副作用モニターにたいする理解と自分たちの医療現場でのモニター活動の発展をはかる上で大切な点を見出されたことが参加者からの感想からもうかがわれた。副作用モニターを発展させたとりくみにしている法人や県連と担当者まかせに陥り、積み上げが弱い法人の格差や、保険薬局の展開により新たな施設体系でのとりくみの工夫や、医薬連携の強化・発展の課題など、副作用モニターを発展させる立場からさまざまな経験が交流された。
 副作用モニター分散会では、実務担当者会議のメンバーの協力があった。
 新薬モニターは会場の関係で一カ所に集約されたため、進行上でとまどいもあったようだか、医薬品の評価にたいして各参加者や所属施設の到達と方向性を学びとれたという感想が多かった。薬品評価ができていないという問題意識にたいして、日常の医療の中でそれなりに評価もしているはずであり、自信をもったとりくみに発展させることこそ必要だという意見など、多彩なやりとりが行われた。今後の課題としては、医薬品評価を発展させるためにさらにつっこんだ交流などの希望が出されていた。

 2日目は、前日の分散会で出された質問にたいして、副作用モニターについては高田委員、新薬モニターにたいしては藤竿委員から報告が行われた。
 副作用モニターについては、まず報告書の記載について解説が行われ、必須事項については、記入してほしいことや副作用モニター解説や副作用グレードなどを各県連に再度配布する旨回答が行われた。さらに、報告の第一歩として、用紙そのものを全日本に送ることからはじめてほしいことや、フロッピー入力が「桐」以外でもできるように検討していることなどが報告された。
 新薬モニターについては、薬事委員会が開催されている法人から送ってほしいことが強調された。また、データの不備についてチェック作業が必要であり、今後の改善点となっていることや新薬モニターでのコメントのきめ細かい記入の要請があった。

 ケースレポート報告では朝倉委員から、薬剤師が医療に参加し、医療行為に働きかけた結果、チーム医療の向上や患者の治療向上の経験を集約する報告書式である旨説明があった。
 ケースレポートの考え方は、みずからの医療の向上を行う上での武器であり、日常的な場面の中でまとめていくことができれば、薬剤師の医療活動参加を発展させることができる点が強調された。

 ついで、北海道・福岡・東京・大阪からケースレポートにもとづく報告が行われた。
 北海道からはカリウム値の内服剤でのコントロールについての報告が行われ、福岡からは漢方薬の活用による患者の重症なしゃっくりの治療についての報告が行われた。
 さらに、東京からは腎性無尿と医薬品の副作用の関連についての報告が行われ、大阪からは在宅患者の医薬品にかかわる療養上の注意事項と、これを支える家族のかかわりについて報告された。
 以上の4題の報告は、準備期間の関係でケースレポート書式の記載方法についても試行錯誤の中で、医薬品使用にかかわる患者の副作用回避・治療促進・家族関係といったそれぞれの視点でまとめられ、非常に好評であった。
 このとりくみを持ち帰り、発展させていきたいという感想が多く、モニターを医療に生かす原点ともいうべきとりくみであっただけに、大いに成功したといえる。

 ついで副作用モニターと新薬モニターのとりくみについて報告が行われた。
 長野からは、10年間にわたる県連副作用モニター活動報告が行われた。県連的に副作用委員会ニュースの発行や調査委員会などの活動を積み上げていることや、直近の1年間集計284件の内容が報告された。
 千葉からは、県連DI委員会の活動について報告が行われた。各施設の副作用モニターシステムの現状と問題点や、県連的な情報共有化の課題などが報告された。また、DIニュースの発行とニュースにたいする意見にもとづくニュース内容の検討などが報告された。
 北海道からは、新薬モニターの評価とその後の使用後評価や安全性にもとづく採用削除などのとりくみが報告された。この中で、医薬品の有効性・安全性に積極的に評価するために、県連的な体制の充実や薬剤師の力量強化について課題としていることが強調された。
 福岡からは、千鳥橋病院の評価システムと評価結果が報告された。評価にあたり、医師の参加により充実させたとりくみとともに採用後評価と再評価のとりくみが課題であることが報告された。

 閉会あいさつが浜浦理事より行われた。今回の交流会の中で薬剤師が主体的に医療にかかわることが大切であることが確認され、その方向性が示唆された交流会になり、薬害問題など人権を守るとりくみとして発展させていくことがなによりも大切なポイントであることが強調された。
 全日本民医連の中では、薬剤師にたいして「科学者として」とりくみを強めてほしいことや、今日のモニター活動が薬事モニターとして発展していることの紹介があった。
 また、医師とのかかわりを強め、薬剤師が医療の中で医師や医療活動をサポートしていることや、すべての薬剤師が患者の人権を守る立場から奮闘してほしいことが強調された。
 最後に、患者と医療、そして私たちの職場を守る上で政治を変えるたたかいと医療を発展させる課題を結合してとりくみを強めていくことが強調された。

4. おわりに

 今回の交流集会では、全日本民医連が掲げている医療・経営構造の転換を、薬剤師の医療活動の場面からどうとりくむのかが明らかになった。
 すべてのモニター活動が医薬品や薬剤師の範疇にとどまるのではなく、医療そのものに大きく影響しているし、さらに発展させていくという点で従来のモニター交流集会から大きく一歩を踏み出したといえる。
 私たちは、今回の交流集会の成果をぜひ各地で発展させ、21世紀に医療を真に国民の手に取り戻していくことを、実践を通して組み立てていくよう奮闘したい。

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