1997年10月18日
全日本民医連第32期第21回理事会
目次
[1] 全日本民医連は96年3月の第2回理事会で「全日本民医連保険薬局政策(案)」を発表し、県連・院所の討議に付しました。この「政策(案)」は新たな薬局の開設にも活用されており、97年8月現在の民医連加盟の薬局数は138施設となりました。
この間、全国各地でこの「政策(案)」もふまえ、患者の立場に立った民医連ならではの薬局活動が旺盛にとりくまれ、「民医連医療」誌に連載されている“いきいき保険薬局”にも反映されています。とりわけ今回の医療改悪反対のたたかいでは、保険薬局でも窓口から地域へ、さらに他の薬局や薬剤師会へとかつてない規模の運動が行われ、この中で職員が大いに学び、たたかいました。こうした活動の前進を通して民医連の保険薬局を「新たな民医連運動の拠点」にしていく確信も深まってきています。
[2] 「政策(案)」にたいするアンケート意見集約は、38通を数えました。内容的には、民医連の医薬分業にたいする基本的態度の部分と情勢の進展や活動の広がりにかかわった意見や補足はあるものの、間違いであるとの意見はありませんでした。
一方、医薬分業や薬局・薬剤をめぐる情勢は、この数年間、医療情勢の一つの環としてめまぐるしく動き、今後もひきつづくことが予想されています。また現在、薬剤・保険薬局部では「薬剤師政策」の作成にとりかかっており、「保険薬局政策」との関連も出てきます。
これらのことをふまえ、(案)とり・修文について検討の結果、以下のように行うことにしました。
1)その後の情勢や活動内容の発展などにふれると全面書きかえとなるので、「政策(案)」についてその発表時点にさかのばった整理と最小限の修文を行い、「保険薬局政策」とする。
2)その後の情勢の進展と課題、今後の実践上とくに留意すべき点については、主なものにしぼって、この「(案)をとるにあたって」でふれる。
3)民医連の医薬分業にたいする基本的態度については、91年6月の理事会方針の引用部分を明確にした整理をする。この間、実践的には医療整備を行ってきているが、今後も情勢の進展をふまえ研究課題としていく。
[3] 「政策(案)」発表後の主な情勢と課題
1)薬事法・薬剤師法の改定と薬剤情報提供
ソリブジン事故や薬害エイズ問題の発生と、社会的な情報開示やインフォームド・コンセントの流れの中で薬事法・薬剤師法が改定され、97年4月からは「調剤した医薬品」についての情報提供が「義務」化されました。すべての薬局が情報提供料をとるにとどまらず、患者さんや医師にとって必要な情報を提供できるよう、体制やシステムの確立、強化がますます求められています。県連や全日本のネットワークづくりも重要です。
2)薬局のグランドデザイン
日本薬剤師会は97年1月、「将来ビジョンと21世紀初頭に向けての活動指針」と題するグランドデザインの最終答申をまとめました。これは行政や関連業界の動向、欧米各国の現状を分析した上での提言であり、大資本や異業種の進出に対抗する薬局協同組合の組織化を打ち出しているのもひとつの特徴です。私たちの今後のあり方を考える上でも分析・検討しておく必要があります。
3)薬価問題
政府・厚生省と与党勢力は、現行薬価基準を廃止し、新たに保険からの償還額に上限をもうける「日本型参照価格制」を導入しようとしています。これは破綻した国家財政のつけを、ひきつづき大企業奉仕、軍事優先を貫きながら国民犠牲で解決しようとする閣議決定「財政構造改革の推進について」を受けた医療の抜本改悪の一貫として行われるものです。その基本は患者負担を大幅に増やし、医療現場に新たな混乱をもちこむとともに、対象外の新薬の高価格を温存するなど、大メーカーの利益を保障するものです。
原価公開、価格決定の透明化で大メーカーの暴利のメスを入れ、すべての患者に必要な薬を保障させる運動が重要です。
[4] 今後の実践上とくに留意すべき点
1)民医連の薬局開設にあたって
民医連の保険薬局は、そのほとんどが民医連の医療機関と連携して開設され経験を蓄積し発展してきました。政府・厚生省の医療再編の攻撃のもとで、民医連は老健施設・訪問看護ステーション・特別養護老人ホーム・在宅介護支援センターなどに保険薬局を加え、トータルとして総合的な施設体系づくりをめざしてとりくんできました。
民医連の保険薬局が保険調剤にくわえて、これらの施設体系と連携し、OTC・介護用品の供給、在宅医療のとりくみを強めていくことが、新たな情勢の下でますます求められています。このことは民医連が内部だけの閉鎖的なネットワークづくりをめざすことを意味するものではなく、それぞれが民医連外の各施設との連携もすすめる立場です。
医薬分業においても、患者さんの選択によって医療機関は民医連外の多くの薬局と、薬局も多くの医療機関や薬局と連携をもつことは当然です。
今回の医療改悪を契機に、民医連の医療機関でも外来の調剤を院外処方箋にきりかえることを検討するところが増えています。中には、民医連の薬局がないので、やむをえず街の薬局との連携を考えた検討に入るところもあります。
民医連のつぎの薬局建設にあたって、民医連以外の医療機関の前での建設をどう考えるかという問題があります。
民医連以外との連携も選択肢に入ることはありえますが、いま見てきたように、県連全体、さらにブロックにまで広げてみると、民医連の薬局建設が待たれているところはまだまだあります。力量のある薬局法人がこれらの地域への建設の母体となる、あるいは薬剤師などの人材を送り出すことは、民医連運動全体への貢献になります。
こうしたことを県連として、場合によってはブロックとしても検討することが大切です。
2)県連機能の強化が重要
保険薬局分野でも、薬剤師の確保など体制上の困難、経営上の問題、新たな事業計画など、本来なら県連レベルでも把握し指導されるべきところが法人まかせになっていて、突然矛盾としてあらわれた事例があります。薬剤師の確保が困難なところほど、県連がその確保と養成、交流の課題を正面にすえ、県連内部のアンバランスを是正しながら、全体として薬局活動のレベルアップをはかっていくことが大切です。
民医連院所の新規開設にあたっては、法人、県連(時にはブロック)としての総合的な医療展開をどうすすめるかといった医療構想の慎重な検討のうえに計画されるものです。保険薬局の新規展開もこの視点から検討していくことが必要です。
3)若干の検討課題
一つは、薬局建設計画の県連および全日本への提出資料についてです。
現在はC基準で検討されていますが、薬局をめぐる経営環境も大きく変化してきており、より厳密な計画が求められます。現時点にふさわしい様式もふくめ、全日本で検討します。
もう一つは、友の会型の共同組織の名称にかかわる問題です。
新刊パンフ『共同組織と民医連運動』では、「保険薬局や訪問看護ステーションが増え、そこの職員が共同組織の活動のとりくむ上で……やりにくい面…」も考慮して、「最近、地域名をつけるところが増えてきました」と紹介し、「これは、運動の発展段階により、地方により積極的に検討すべき課題です。……」と述べています。検討がすすむまでは、保険薬局はひきつづき可能な形態で参加していくことが大切です。
[5] 以上で(案)をとり、「保険薬局政策」として発表しますが、今後の討論と実践の中で検討していく課題も残されています。現在、「民医連の医療宣言」づくりが各職場で検討されていますが、この保険薬局政策や作成中の「薬剤師政策」をより豊かな内容にしていく上でもたいへん重要なとりくみになります。各法人、職場での大いなる討論と実践を期待します。
医療をめぐる情勢は、厚生省が出した「中間報告」路線に沿って“効率的な医療”が追求され、老人医療などをターゲットにしながら度重なる医療改悪が強行されてきました。
31期第3回評議員会で解明されているように、1996年には医療と社会保障の抜本的改悪が介護保険の創設をテコとして企てられています。「21世紀の福祉ピジョン」「社会保障体制の再構築(勧告)」「厚生省白書」では、社会保障の根本理念を突き崩す憲法違反の蛮行として構想されています。保険薬局をめぐる情勢の変化も、この路線の延長線上にあります。
薬をめぐる情勢では、「医薬品の適正使用」を前面にした医療費削減政策が強められ、HIV、ソリブジン事件など重大な薬害の多発、薬品流通の建値制度での大手製薬メーカーのボロ儲けの構造など、重要問題が横たわっています。
私たちがしっかりとこれらの情勢を見きわめ、国民医療を守り抜く立場で保険薬局の活動を築き上げていく必要があります。
全日本民医連に加盟する保険薬局は1995年8月時点で97施設となり、ひきつづき増加することが見込まれています。この間、1993年第1回保険薬局交流集会、1995年第2回保険薬局交流集会も開催され、民医連の保険薬局らしい活動が創造的に追求されはじめていますが、ここ数年で急速に設立された施設が多く、全体として活動の蓄積が浅い状況にあります。
民医連加盟した保険薬局は、全国的に展開されている訪問看護ステーションや在宅介護支援センターなどとともに、病院・診療所と強力に連携しながら地域住民の医療や介護を守り、民医連の医療活動を支える新たな活動部隊としての活躍が期待されています。
この「保険薬局政策」は、第31期全日本民医連総会方針で提起された「保険薬局政策の作成」を実践する立場で作成しています。この政策は、今後さらに経験を蓄積していきながら、より体系的な保険薬局政策として発展させていくことをめざします。
「保険薬局政策」では以下の点を目標にします。また、薬剤問題検討委員会で検討されている「薬剤師政策」とは、情勢部分や他の一部でだぶる部分も出てくるであろうことをあらかじめおことわりしておきます。
「21世紀の福祉ビジョン」や「勧告」は、社会保障体制の再構築にあたって「かかりつけ医」とならんで「かかりつけ薬局」の育成をあげ、地域住民の医薬品や器具などの相談に応じるとしています。また、「医薬品の適正使用」に貢献できる薬局活動を強調しています。
これら保険薬局向けの施策と、「勧告」の基本理念を貫いている「医療資源の適正かつ効率的な配分」にともなう診療報酬制度の抜本的見直しや、「医療サービスの適正な検討」にともなう応分の利用者負担などとのかかわりをしっかりと分析し、真に地域住民にこたえていける保険薬局の方向性を創り出していく必要があります。
厚生省が経済誘導しておしすすめてきた医薬分業路線のもとで、民医連としてどのような方針をもって活動をしてきたのか、またその到達点と課題は何かを明らかにしておくことが必要です。そして、民医連保険薬局のあゆみをつかみ、今後の活動に生かしていくことが大切です。
国が国民の切実な要求である医療や福祉にたいし、責任を回避するという歴史に逆行する路線をひた走る中で、地域住民とともに医療・福祉の改善を要求していく運動を大切にすることが重要です。また、安全で有効な薬物治療をめざして、スモンやHIVなどの国や製薬会社が引き起こした重大な薬害事件の真相と責任問題を明らかにし、被害者の立場に立ったとりくみをしていく必要があります。そして、二度と薬害を起こさせない厚生行政の民主的改革や、みずからも副作用モニターの優れたとりくみなど、地域住民の立場に立った技術研鎖を追求していく必要があります。
これら民医連の保険薬局の存在意義を鮮明にする課題や目標を明らかにしています。
保険薬局は、情勢の反映もあって、急速に民医連加盟施設が増えています。
91年6月、全日本民医連理事会は「医薬分業の新たな情勢と保険薬局活動の改善について」の方針を提起しました。その留意すべき点で、適正な医療整備と医療活動での連携強化、民主的所有と民主的管理運営、民主集中と県連機能強化など、民医連に加盟した保険薬局の活動上の重要課題を提起しています。また、民医連の医療活動をはじめて体験する新入職員が多くを占め、教育問題は特別に重要な課題になっています。
情勢が激動しているもとで、これらの組織強化は焦眉の課題となっています。
政府・厚生省は臨調「行革」以来、老人医療費の有料化をはじめ医療・福祉・年金と社会保障のすべての分野で改悪をおしすすめてきました。
この間強行された入院給食の自己負担化、付添いの廃止、国保の改悪などによって、高齢者を中心に入院できない、退院を迫られる、医療費負担がたいへんで「病人」が「患者」になれない事態や、人権が保障されない状況はいっそう深刻になっています。
そうしたいま、厚生省は「21世紀の高齢化社会にそなえる」として、社会保障分野における憲法改悪というべき医療と社会保障の抜本的改悪(以下、社保総改悪)を行おうとしています。
この総改悪の枠組みは、1)介護保険の導入をテコとする医療保険制度などの抜本的改悪、2)診療報酬や関係法「改定」もかかわる医療供給体制と医療内容の統制・再編成、3)年金(所得保障)の見直し、4)福祉制度の契約サービス化による解体の四つから成ります。これは社会保障の全分野にわたって、介護問題で切実な国民の要求を逆手にとり、企業負担を減らし、国民負担を大幅に強めて、21世紀高齢化社会に対応する「社会システム」をつくり上げようとするものです。
厚生省は国民医療費の伸びを抑える柱の一つに薬剤費の抑制を位置づけ、「医薬品の適正使用」をうたい文句に、医療制度抜本改悪や診療報酬改定に盛り込む施策をすすめています。これらの議論では、日本の高薬価、製薬企業の高利潤、薬価基準への銘柄別収載などで疑問の声も出ているにもかかわらず、企業経営に配慮した方向がとられています。
そもそも日本の医療費に占める薬剤費が30%と欧米に比べて高いのは、「独占薬価」といわれるしくみや新薬の比重がきわめて大きいことによります。
これまで厚生省は、このような医療保険制度を活用した企業の保護政策をすすめてきましたが、近年の国際化と新薬の開発競争の激化の中で、上位企業に新薬開発力をつけさせる産業育成策もとってきています。新薬の審査・承認をスピードアップし、薬価収載を年4回にしたこと(後発品は2年に1回)、10年間の先発権(独占販売権)を保障したことなどです。しかも、薬価は製造原価とは無関係に決められ、高薬価・高利潤を保障してきました。また、銘柄別薬価収載方式も先発品を多く出し、宣伝力が大きい大手製薬メーカーに有利にはたらいてきました。
その結果、医薬品の販売額に占める新薬(最近10年間に発売された医薬品)の割合は、ドイツでは10.4%(85年〜93年)にたいし日本は55.5%(93年)と大きな差があります。95年9月、大阪保険医協会が発表した調査結果は、「日本の薬価は欧米の1.14〜2.66倍と高く、とりわけ新薬の高薬価が注目される」と述べています。
日米MOSS協議の結果、米製薬企業からの要求のもとに非関税障壁になっている医薬品の流通改革が行われました。そして91年以来、製薬メーカーの卸にたいする価格支配を排除する方向ですすめられました。その過程で導入され、92年4月から実施された建値制導入は、メーカーの医薬品価格の高値安定による利益増と医療機関の経営の困難さ、卸の競争激化を生み出しました。
大手製薬メーカーは常に十数パーセントの経常利益率を維持しています。これは製造業平均の5倍にあたる抜群の利益率であり、まさにボロ儲けといわざるをえません。厚生省が医療費の「ムダ」をいうのであれば、こうした保険財政に寄生した「ムダ」にまず手をつけ、製薬メーカーの製造原価を公開させ、それにもとづいた適正な価格への引き下げを行うべきです。
この間題での厚生省の真のねらいは、患者負担と医療の現場へのしわ寄せをいっそう持ち込むことにあります。まず、かねてからいわれていた大衆薬類似薬剤の保険はずしや、特定療養費の拡大などによる患者の一部負担の導入が考えられています。また、老人医療で導入された包括制の拡大、調剤料や薬剤料のマルメやカットを強化することも議論になっています。厚生省は、さらに高齢者や在宅医療における医薬品の使用基準の作成をすすめ、これを薬剤の使用量をおさえる手だてとして活用しようとしています。
このように、医師の処方権にまで踏み込んだ改悪が画策されています。
厚生省、製薬会社、一部の血友病の専門家たちは、血友病の治療に使用した血液製剤からHIV感染の危険が迫っていることを知りながらも、「安全だ」としてなんらの有効な対策をとらず使用し続けた結果、血友病患者の4割、約2000人が感染させられました。薬害エイズの真相が明らかになるにつれ、国民の間にはこうした犯罪的行為にたいする怒りとともに、薬の安全性や薬害にたいする不安も広がっています。
欧米では議会で調査を行い、政府の責任を認め、謝罪、補償を行っている中で、日本では国はいっさいの責任を認めず、製薬会社と一体となって法廷で争ってきました。しかし、若者を中心とした国民世論の前に、95年10月、裁判所は法的責任の指摘を含む和議勧告を出しました。世論の包囲で一日も早く責任を認めさせ、謝罪と十分な賠償と救済、エイズ治療体制の確立をさせることが重要です。
薬害エイズに続いて、新薬ソリブジンが発売後1カ月の間に、抗ガン剤との相互作用で14名の死亡者を出すという事件が発生しました。
この事件でもっとも責任があるのは、文献上も予想され、開発過程でも死亡例があったにもかかわらず、それにたいする十分な手だてもとらず製品化を強行したメーカーと、これを審査し承認した厚生行政の側です。同時に、不十分ながらも添付文書には「併用を避けること」「抗癌剤の血中濃度を上昇させる」との記載があり、医療側にも医薬品情報をふまえ、安全性に徹した業務遂行にいっそう習熟することという教訓を残しています。その後も、新薬イリノテカンなど類似の事例がいくつも報告されています。
日米MOSS協議以降、日本側は米国の臨床試験データの受け入れ新薬の年4回収載などの要求に合意し、実施に移してきました。ひきつづき日米欧三極会議では新薬審査データの相互利用の動きが強まっています。人種の違いなどを考慮しなければならない点からも、臨床試験の不正常な合理化であり、問題があります。
新薬開発優先の厚生行政の流れから見れば、規制緩和の名のもとで「危険な薬剤」が提供され、薬害が拡大する恐れもあります。
医薬品の安全性についての最近の厚生省の論調は、臨床試験段階では症例数等に限界があるので、実際に医療の現場で広範に使用された場合に起こりうるさまざまな副作用を承認時までにすべてを知ることは不可能だとして、製造承認審査は不十分なまま、そのチェックを市販後の医療現場に負わせているように思われます。しかも、日本の臨床試験・承認審査が欧米に比べてもズサンであることが指摘されており、その体制の抜本的強化と情報の公開を要求していくことが重要です。
95年7月から日本でも製造物責任法(PL法)が施行されました。製薬企業は「指示・警告上の欠陥=情報伝達の不足」を問題にされることから逃れるため、最近ではひんばんな添付文書の改訂を行っています。
また、厚生省の副作用情報や製薬企業、日本薬剤師会の医薬品情報の提供が強まっていることは一定評価されますが、セロシオンなどに見られるように、重要な情報が医療現場に届かない情報隠しと情報の氾濫が混在した状況です。医療現場にとって利用しやすく、水準の高い情報を集積した開かれたデータベースを公的責任で作成することが必要です。
こうしたことからも、第一線の医療機関では医薬品情報を絶えず収集・解析・伝達する中で、安全性を重視した薬剤活動をすすめることがますます求められています。
私たちも、副作用モニターの活動や医療機関と連携した薬剤活動を情勢に見合っていっそう発展させるとともに、全日本民医達レベルでの国民の立場に立った自主的な情報機能をつくっていくことも重要となっています。
原生省のひきつづく強力な医薬分業政策もあり、94年度の分業率は18%に達し、30%をこえたところは7都県に及んでいます。国立38病院における医薬分業推進モデル事業は着実に前進し、94年度上半期の院外処方箋発行率は27.4%に達したと報告され、日本病院薬剤師会が調査した国立大学付属病院の院外処方簑の発行率は50%と報告されています。
あるアンケートによれば、医薬分業の計画なしの理由は「まだ薬価差がある」「近くに受け入れ体制がない」の2点となっています。しかし、全体の流れは院外処方箋の発行の方向にすすみ、21世紀までには全国平均30%に到達する勢いとみられます。日本薬剤師会ではすでに、50%時代のグランドデザインの検討に入っています。また、上記医療機関の処方箋の受け入れは門前薬局が主となっており、門前薬局なしは少ないのが実態です。
医薬分業が1兆円産業ということで、さくら調剤、日本調剤など調剤薬局チェーンの全国的な展開が活発です。新たに総合商社などの大資本(三井物産、住友商事、三菱化学)や臨床検査最大手のSRL、日本医療事務センターなどが薬局経営に乗り出し、ドラッグストアや大手スーパー(ジャスコ、西友(朝日メディコ)、ニチイ)も調剤分野に進出してきています。これは、厚生省が営利企業の薬局開設についても、ガイドラインに沿っていれば認可しているからです。医療営利化の一翼をになう側面について留意していく必要があります。
大型門前薬局の進出に危機感を抱く日本薬剤師会(日薬)は、95年7月、厚生省にその進出を阻害し、面分業体制を整備するための薬事法、健康保険法などの再検討と調剤報酬面の改定を要望しました。また、門前にある薬剤師会会営薬局は率先して処方箋の拡散率を高め、いずれ調剤機能をもたない分業支援センターにしていくとの方針を出しました。こうしたことから、今後はこのような面分業促進の動きが強まることが考えられます。
門前がダメで面がよい理由の一つに、門前薬局は「患者をよく把握していない、薬を一元的に管理できないなど、医療の質の向上につながらない」という議論があります。
民医連の薬局はこれまで、患者の立場に立った医療を追求するために、医療機関と患者情報を交換し、ともに学習し、患者教育にあたってきました。これらの活動は地域の薬剤師会でも評価されています。「門前」に位置しようとしまいと、民医連薬局が実践してきた医療機関と連携した活動は医療活動上も重要であり、「患者の立場」に立った医療連携をさらに強化する必要があります。また、これらの活動を本来の医薬分業のあり方として、私たちの実践を薬学会や各種研究会にも広く知らせていくことも大切です。
薬剤師会は、医薬分業を推進しようとする幹部と、これを受け入れる会員、これに不満をもち反発している会員の3つのグループに分かれます。幹部は、とにかくやらなければならないと笛を吹きますが、いままで漢方相談や他の相談薬で地域住民から信頼されてきた薬剤師は、「処方箋一枚を受け入れるために、薬局を閉めて、在庫していない処方薬の購入に備蓄センターに走らなければならない」、また営利を目的とした大手資本の参入には、「薬剤師をなんだと思っているのか。厚生省は薬剤師になにを求めているのか」と怒りや悲鳴をあげています。
医療以外の異業種が営利を求めて進出してくることには、日薬としても強い反発があります。日薬内部では「経営主体は営利法人でなく、非営利の薬局法人の形態をとった方がよい」という議論も出ており、この点では厚生省との矛盾も出てきています。
厚生省と日薬幹部でも微妙な違いがあらわれることもあります。たとえば日薬会長は95年新春対談で、「医薬品の適正使用に関して、薬剤費の抑制効果を期待する議論が突出している。要は有効性と安全性からみて適正妥当か? 費用は結果である」と、ごく当然の発言をし、厚生省を批判しています。
このように職能を国民本位に生かし、下部の会員の意見も汲み上げる立場に立つならば、厚生省との矛盾はさけられません。この点での私たちのかかわりも重要です。
政府・厚生省は87年、「中間報告路線」にもとづく医療供給体制の再編を本格的に実行しはじめました。その一環として、医薬分業の推進を国策として位置づけ、「第二の分業元年」と呼ばれる89年を境に、経済誘導を含む強力な推進策をつぎつぎとうってきました。
厚生省の医薬分業にたいする基本的な目標は、医師から薬をはずし、医療機関での外来投薬をなくすことにより、抜本的な薬価制度の変更(保険はずし)をしやすくすることにねらいがあります。あわせて保険薬局での院外処方箋のチェックの強化により、公費医療費・薬剤費の削減を効果的にすすめることも重視しています。
民医連の医薬分業にたいする基本的態度を、前述した91年6月の理事会方針ではつぎのように述べています。「医師・薬剤師が技術・職能の専門分化を認め、協力し合いながら薬物療法にあたる制度=医薬分業制度については積極的に推進する。しかし、政府の医薬分業政策は公費医療費抑制のために実行されているため、院外処方箋以外は分業と認めなかったり、診療報酬での差別を行うなどの患者の利益を優先しない誤った分業推進の政策になっている。民医連は政府の医薬分業政策を正し、真の医薬分業の確立のために運動する」。
当時は、医薬分業を技術的側面を中心に分析し、見解を述べています。しかし、医薬分業については「医療供給体制」の側面からの検討も必要です。多くの保険薬局が建設され、経験を蓄積しつつある現在、薬局は民医連の総合的施設体系の一環として医療活動を拡大しています。その実践の中で民医連運動の拠点として、とりわけ薬剤の分野で地域医療の民主化に向けて奮闘しています。
厚生省は、92年の医療法改定では薬剤師を医療の担い手として位置づけ、薬局・薬剤師の地域医療での役割を強調しました。93年4月に発表した「薬局業務運営ガイドライン」(以下、ガイドライン)も薬局が地域保健医療に貢献する必要があるとし、開設者についても「医療の担い手である」薬剤師が望ましいとしています。また、ガイドラインではていねいな服薬指導や薬歴管理、処方箋への疑義照会、医薬品情報の収集と活用なども重視しています。
しかし、ガイドラインの真の目的は、医師の処方を医療費削減のために「適正に」チェックできる「独立したかかりつけ薬局」づくりに向けて、従来の三基準の指導内容をさらに一歩すすめることにあります。その核心は「医療機関、医薬品製造業者および卸売業者からの独立」にあります。厚生省は、このガイドラインと整合性をもたせるものとして94年4月には「療養担当規則」を改定し、「医療機関と一体とみられる運営をしてはならない」としました。また、今後1年くらいで薬事法などの法的整備を行うといわれています。
厚生省の幹部は、「このガイドラインによって、医療費削減の医薬分業を一気にやりあげる」とか、「処方箋を受け入れないなら薬局の名称を返上し、他の医薬品販売業に転換せよ」などと公言しています。
もう一点、ガイドラインで注目しておく点は、一般用医薬品の供給を義務づけていることです。
厚生省はことあるごとに風邪薬やパップ剤、ビタミン剤などの保険はずしを打ち出してきますが、これらを薬局に販売させることで保険医療費の削減をねらっているものと考えられます。
94年6月の「在宅医療薬剤供給推進検討委員会報告書」(厚生省薬務局企画課)では、薬剤師が積極的に在宅医療の分野に参加し、在宅医療の推進や質的向上に貢献することが求められているとして、介護用品の供給からIVH製剤、経管・経腸栄養剤、CAPD製剤、抗悪性腫瘍剤、癌性痺痛鎮痛剤、酸素などの供給、指導までを求めています。薬局・薬剤師を医療の担い手と位置づけたこと自体は正当なことですが、重症患者を在宅にもどすための薬物治療面での受け皿づくりにしようとする厚生省の意図が見えてきます。
以上のように、ガイドラインやそれにもとづく行政指導には、部分的にはこれまで民医連が患者の立場に立った保険薬局として重視してきた点も含んでいますが、その基本部分は医療費・薬剤費削減が前面に出ていて、患者のかかりやすさや、患者・医療機関・薬局の三者の信頼関係の上に薬物療法を行うことなどは無視した、国民不在のものといわざるをえません。
これにたいし私たちは、患者の立場に立った薬局活動を医療機関や医師と連携してすすめるとともに、こうした厚生省の分業政策を正すことが重要です。同時に、この間の個別指導などでは、医療機関からの独立性にかかわる問題や疑義照会の頻度と内容、薬歴管理のあり方などが強調されており、医療整備の課題としてもいっそうとりくむことが必要です。しかし、個別指導での不当な指導事例については毅然と反論していくことも大切です。
このような厚生省の政策に影響を与えていると思われるものに、薬局・薬剤師をめぐる国際的な動きがあります。国際的にも「医薬品の合理的な使用」のために、薬剤師の職能を見直す動きがあります。
WHOが93年8月に「第2回ヘルスケアシステムにおける薬剤師の役割に関する会合」を東京で開催し、これからの薬剤師活動の共通理念として「ファーマシューテイカルケア」に焦点をあて、「物質中心から患者等を志向した薬剤師業務」へと転換し、対象を「患者だけでなく市民にまで広げること」、薬剤師と患者の関係だけでなく医師・薬剤師・看護婦・ヘルパー等「チームでの実践」を確認しました。これを受けて、同年9月、東京で開催された国際薬剤師連合(FIP)は「薬局業務規範(GPP)」を採択し、それぞれの薬剤師組織が政府と協力し、国内の基準を作成することとしました。ここで強調されているのは、適正かつ経済的な処方および適切な医薬品の使用に貢献すること、とくに医師の治療のパートナーとしての信頼をえること、また健康増進から予防にいたるまでを業務とすることなどです。
このように薬局・薬剤師の役割は世界的にも転換の時期にあるようですが、「FIP東京宣言」にも、欧州の「薬局業務規範」にも、GPPの要件として「いかなる場合においても患者の福祉を第一の眼目とする」とあるのにたいし、日本のものは「医薬品の適正使用」が前面にあり、「福祉を第一義的に」という言葉はありません。あるのは抽象的な地域医療、保健、福祉に貢献するという言葉のみです。
医薬分業の急速な進行、副作用事故の防止、医療における薬物療法のあり方などが社会的に重要な課題となる中で、薬剤師の養成・教育問題が厚生省・薬剤師会と文部省・大学関係者を中心に大きな論議をよんでいます。
厚生省の薬剤師養成問題検討会は、94年6月、現行の薬学教育のあり方について医療薬学関連および実務研修の不足を指摘し、薬剤師国家試験の受験資格について、当面現行の4年制からプラス2年延長し、この間に6カ月以上の実務研修の実施を提言しました。「95年度厚生白書」は、この内容で今世紀中に変更していくとしています。
すでに、国家試験の出題基準が96年から医療薬学をより重視したものに変わることも視野に入れた大学のカリキュラム改革、病院や薬局での実務実習の延長(現在、通常2週間を1カ月程度に)もとりくまれています。また、社会人の修士課程コースを開始した大学もあります。さらに、6カ月を念頭においた実務実習(導入教育1カ月、病院4カ月、薬局1カ月)の受け入れの可能性を探る調査も行われ、関係分野でのこうした方向に対応する動きも出ています。
当初は年限延長に反対していた文部省側もその意義を認め、95年度に入って再び検討に入っていましたが、8月末「薬学教育の改善に関する調査研究会」が報告書をまとめました。これを受けて文部省は、「薬学教育六年制を一挙に実現することは、大学の教員確保、施設整備の問題などで不可能に近い」「四年制の中で臨床薬学教育の重視、四週間程度の実務実習の義務化などのカリキュラムの改善をはかる」「より高度に分化した薬剤師の専門・職能教育には大学院修士課程を『非臨床系薬学』『臨床系薬学』に大別して行う」との認識を示しました。また、議論をさらに深めるために、両省が共同の検討会を設置するよう提案していると述べています。
重要なことは、この間題を単に「4年か6年か」の年限問題に終わらせるのではなく、国民医療から求められる薬剤師(とくに医療機関と薬局の薬剤師)の役割と人数・その教育制度(大学および生涯)、それを可能にする社会的条件は何なのかなどを、総合的に議論することです。
近年、現役薬剤師の生涯教育・研修も薬科大学や薬剤師会などで活発に行われてきており、94年から薬剤師会は独自に認定薬剤師制度をスタートさせました。この制度は、当面、薬剤師会認定の基準薬局の条件となっていくといわれていますが、将来、厚生省の下請けの役割をはたす(保険)薬剤師の育成や更新制につながるのではないかという心配も一部に出ています。
今後、医薬分業がいっそうすすむと、臨床の場での必要な薬剤師数にたいして大きな不足が生まれる心配があります。こうした時、何らかの形で資格・職種の二本立てとなる懸念もあり、そのからみも含め注意が必要です。私たちも地域薬剤師会や民医連などグループでの研修には積極的にとりくむとともに、下からの民主的な討論でこれらを許さない運動が重要です。
本章では、民医連薬剤師として共通のとりくみや、保険薬局が今日のようなかたちになる以前の民医連薬剤分野のとりくみでも関連するものは取り上げています。
民医連の組織内に併設薬局が開設されたのは1965年、山陽民医連・福島薬局(広島)が最初でした。当時の民医連薬剤師は少数で、その大部分が薬剤購入を担当していたこともあり、経営面からの薬剤解明に力を注ぎ、「薬の階級的把握を求めて」(薬の二面性)という歴史的な論文がまとめられました。
1965年の第1回薬剤問題検討会で新薬の本質の解明、共同化、薬事委員会の必要性が出され、1968年の第2回薬剤問題検討会では独占薬価引き下げ、医薬分業について、また副作用問題がはじめて全国段階で論議され県連薬事委員会、院所薬事委員会の設立の方針が決められました。
1969年、自民党の発表した「国民医療大綱」での医薬分業にたいしては、よい医療とは何かという観点から、医療の反動的再編を目的とした政府独占主導型医薬分業に反対することを明確にしてきました。
1971年、アメリカFDAの有害無益薬品の発表は日本でも大問題になり、薬剤再評価の道がはじまり、民医連薬剤師の学習活動が院所の医療活動上不可欠の課題となっていきました。
そんな情勢のもと、1971年4月に京都で第1回全国薬剤師交流集会が開かれ、福岡民医連千鳥橋病院の病棟活動など先進的な薬剤師活動の報告が多くの仲間を励ましました。中でも保険薬局を開設して院所の経営に貢献しつつ、当時多くの院所で薬剤助手に頼っていた薬剤業務を薬剤師集団で拡大発展させている山陽民医連福島薬局の報告は注目を集め、以後、全国からつぎつぎと広島へ見学者が訪れました。
1973年に東京民医連大田病院が調剤薬局を併設しました。1974年の院外処方箋料、薬局調剤基本料の大幅アップを契機に、全国的に民医連併設保険薬局が急速に増加しました。新しくつくられた民医連併設保険薬局は経営改善に大きく貢献し、薬剤師の体制が強化され、薬剤活動の前進をもたらしました。しかし、保険薬局がはたすべき役割や性格の解明が不十分なために、その後の情勢の変化にたいする対応や医療整備の課題に弱点を残しました。
民医連理事会は、1974年「薬剤問題を中心とする当面の情勢と保険調剤薬局について」、1975年には「再び当面の薬剤情勢と保険調剤薬局について」という方針を示しています。それは「政府の低医療費政策、製薬独占企業の利益保障、医療の反動的再編のための医薬分業に反対し、医療改善の共同の課題に国民と団結し、保険薬局の本質を正しく認識して、一致してたたかう」方向を示したものでした。
1982年に厚生省薬務局長・保険局長連名の通知「調剤薬局の取扱いについて」、その後の保険局「内款」以後、いわゆる「第二薬局」への指導が強化され、多くの県連ではいろいろな経過を経て併設薬局が廃止されていきました。一方、いくつかの県連では医療法人から薬局法人を分離独立させ、院所との新たな協力関係を築きながら、独自の薬局活動をすすめるところも出てきました。
1986年、第27回総会の規約改正で医療機関に準ずる組織として保険薬局の民医連加盟が承認され、保険薬局薬剤師の新たな出発点となりました。
1987年の第5回薬剤問題検討会では、「医療機関に準ずる組織として民医連に加盟した薬局の活動について」の問題提起が出され、交流も含めて保険薬局活動のあり方の討議も深められました。
厚生省が1989年を「第二の医薬分業元年」と位置づけ、積極的に分業推進策をおしすすめる中で、1991年6月、理事会は「『医薬分業』の新たな情勢と保険薬局活動の改善について」を発表し、あらめて民医連保険薬局のはたすべき役割・性格の解明を行い、民医連保険薬局の正しい発展のための討議と実践を呼びかけました。
1993年には第1回保険薬局交流集会が開催され、全国の貴重な薬局活動が少しずつ地域で認められ、民医連の保険薬局らしい活動につながるさまざまな芽が出てきていることを確認し合いました。
また、1995年2月には第2回保険薬局交流集会が開催され、在宅訪問活動では患者さんを薬を通して見ている狭い視野ではなく、“生活の場でとらえる”という民医連の医療観の大切さをあらためて新鮮に受けとめる経験になっています。地域に出て「入浴車の要求がわかった」「地域要求がわかるようになった」など、貴重な報告がされました。そして、自治体への要求行動の必要性や病院・診療所や訪問看護ステーションなどとの強力な連携の必要性も語られました。また、社保活動についても、介護保険の問題でみずからとりくまなければならない活動として位置づけ、患者さん宅や地域薬剤師会の会員宅へ反対署名の訪問活動にとりくむなど、民医連の保険薬局としてその存在を確立していくための活動がはじまっています。
このように、地域連携や訪問活動、教育・研修活動、社保活動など、第1回交流集会の「芽の活動」をさらに発展させ、民医連ならではの活動が全国ではじまっていることを確認しました。
技術料の確保による経済的な充実で薬剤師や事務の増員がはかられ、医療活動の前進や在宅への訪問活動、共同組織の班会への参加、地域の開業薬局との連携がはじまるなど、従来の民医連の枠をこえた活動の広がりが見られています。病院・診療所勤務薬剤師業務から、さらに視野を広げた保険薬局としての新たな業務拡大が追求されてきています。
1)薬歴簿による患者情報の集中で、コンプライアンスの向上、副作用を未然に防ぐ努力が続けられてきています。
2)薬局独自で、あるいは医療機関の薬剤師たちとの連携や服薬指導の強化で、薬剤の臨床評価にとりくみ、副作用モニターなど情報の全国的な収集や分析、現場への返しなど社会的にも優れた活動へと発展しています。
3)在宅訪問も民医連ならではの活動として各地で実践され、業界紙で紹介されたり、地域薬剤師会の研修を引き受ける薬局も生まれ、この分野での先陣をきっています。また、得られた患者情報をトレースレポートなど文書で医療機関に返すことにより、連携も大いにすすみました。
4)OTCや介護用品などの販売で、地域住民との新しい信頼関係をつくり上げてきています。
こうした薬局活動の地道な積み重ねは、患者にとって安心してかかれる薬局として信頼を高めてきています。
民医連の保険薬局は、患者要求にこたえる活動を展開する中で、経営面からも民医連運動の発展に大いに貢献してきました。
薬局の経営は2年ごとに実施された調剤報酬や薬価改定によって大きな影響を受けてきましたが、薬歴管理や服薬指導の充実強化による技術料確保と薬剤の購入や銘柄変更、価格交渉の経験交流などを通じて最小限のダメージに抑えてきました。
薬局法人の経営を確立していくという点では、新設法人であるなどの事情から主体的な薬局活動方針や予算方針を作成していくこと、全職員参加の予算づくり等の点で弱点があります。全国的な経営分析ができるよう、保険薬局統一会計基準の策定が検討されてきています。
薬剤師の確保については、分業の進展など地域によって非常に困難な県連もありますが、県連および薬局独自での奨学金制度や薬学生実習などの確保活動が積極的にとりくまれ、多くの新人が民医連薬局に参加してきています。経済的裏づけにより、各種研修会への参加も旺盛にとりくまれました。研修計画も、薬局だけでなく総合的な医療人としての研修の必要性から、医療機関との連携により幅広い研修ができてきています。
しかし、薬局法人は民医連活動の蓄積は少なく、しかも新人薬剤師の比率が大きくなってきている状況で、21世紀の民医連運動を担う後継者づくりは特別に重視すべき課題です。
「民医連の魂」である社保活動については、薬の保険はずしなどの攻撃やHIV訴訟を支える活動など、医療機関と連携した先進的なとりくみもすすめられてきましたが、全体としてはまだ不十分な分野であり、今後の重点課題として位置づけていくことが大切です。また、地域社保協づくりに積極的に参加し、国民の切実な福祉・医療要求を実現させていくことが重要です。
共同組織との「共同の営みの医療」を実践していくとりくみについても、在宅訪問服薬指導の活動など、医療機関と連携してすすめていくことが重要です。今後、さらに位置づけて発展させていく課題としていきます。
地域の薬剤師会とは、面分業における備蓄センターの役割や学習会への協力や実習受け入れなどを通じて、各地で新たな連携がすすんできています。在宅訪問活動の中から保健所や訪問看護ステーション、在宅介護支援センター、開業医などとの連携がはじまり、従来の枠をこえた医療連携がすすんできています。
いまほど、医薬品が「安全性」と「経済性」の両側面から同時に問題にされたことはありません。医療費削減のための医療供給システムの変更や社会保障制度の切り崩しの攻撃にたいして、われわれがいかに「国民の立場に立った安全で有効な医薬品の供給システム」を確立するかが問われています。この立場から、保険薬局に求められる課題と役割を明確にします。
民医連保険薬局の存在意義は、これまでの活動の蓄積の上に立って、民医連の医療機関との連携を軸に、民医連ならではの薬局活動を展開し、「新たな民医連運動の拠点」として地域医療の民主化に貢献することです。
その視点から、保険薬局の重点課題として以下の7点を確認します。
薬害エイズやソリブジン事件に見られるように、国民の基本的人権よりも企業の利潤追求を優先する厚生省や製薬企業の姿勢は、改まるどころかますます強まっています。民医連に所属するすべての薬剤師が、この間題を自分自身の課題と受けとめる必要があります。
厚生省交渉を強化します。職能団体をはじめ、地域の人々とともに「安全で有効な医薬品」を「適正な価格」で供給させる運動にとりくみます。
1)薬害エイズの国と製薬企業の責任を最後まで追求し、企業の利益が人の命よりも優先する行政を、基本的人権が守られるようあらゆる面から追求します。
2)医薬品を製造承認審査の不十分なままに発売し、市販後に追跡調査や臨床の「適正使用の推進」として、医療現場のみに安全性確保の責任をとらせるような政策には反対です。
製造承認審査に国の責任で十分な人員を確保させ、製造承認資料、再審査・再評価の資料を公開させましょう。
3)「医薬品の適正使用」を医療費削減に利用することに反対します。臨床に役立つ医薬品と、治療情報の公的費用による整備と、すべての薬局・医療機関への情報提供を要求します。
4)副作用被害者救済制度を国民が利用しやすいシステムに改善すると同時に、存在をもっと国民に知らせていきます。
1)日本の医薬品の高薬価は、世界的に見ても異常です。適正な薬価基準のために、原価を公開させましょう。
製薬企業だけに利益を誘導する薬価基準、建値制度に反対します。
2)厚生省の政策誘導の診療報酬でなく、国民が安心していつでもどこでも受診でき、医療従事者の生活が保障される診療報酬の引き上げを実現させましょう。
3)薬価基準の銘柄別収載は医薬分業に障害になるものとして、薬剤師会でも不満の声があがっています。銘柄別収載を廃止させましょう。
4)インターフェロンの肝炎への適用等、必要な薬剤の必要な疾患への保険適用を患者会等との共闘課題とし、実現に向けて努力します。
民医連院所がこれまで築いてきた民主的集団医療は優れた医療実践であり、「共同の営みの医療」を前進させていく上でもいっそうその成果を発展させていく必要があります。
保険薬局は医療機関との連携を強化し、民主的集団医療を発展させ、「患者の立場に立った安全で有効な薬物療法」の前進のために奮闘することが大切です。
厚生省・薬剤師会は大がかりな門前薬局攻撃を展開していますが、重要な問題は患者にとって最善の医療供給システムを提供していくことであり、私たちが重視してきた医療機関との連携強化や民主的な地域ネットワークづくりの課題は、医療供給システム上もきわめて重要な医療実践です。門前であるかどうかは論外の問題であり、門前薬局であることを理由にした診療報酬のランクづけは本末転倒の施策といわざるをえません。
また、「国民の立場に立った医薬品の供給システム」はどうあるべきか検討し、処方箋調剤に限らない分野の地域要求にもこたえていきます。
1)すべての薬局が調剤業務の基本に薬歴管理を置き、それにもとづいた服薬指導を実施します。さらに、できる限り服薬後のモニターを実施し、問題のある患者については処方医と処方検討します。できる限り外来患者の血中濃度解析サービス等も行い、処方決定に参加します。
2)薬剤評価や副作用報告については医療機関と検討する機会をもち、その後の薬物療法に生かすこととします。また、民医連の副作用モニター、厚生省の副作用モニター等に積極的に情報提供し、「二度と同じ副作用を繰り返さない」薬剤活動の発展に貢献していきます。
3)処方箋調剤だけではない一般薬や漢方薬も扱い、相談にもこたえられる技術を身につけます。また、一般薬や検査薬の安全性についても検討します。一般薬や漢方薬を扱うことは、いままでは民医連とつながりのなかったより広い地域住民とのつながりをつくることでもあります。ただし、一方で厚生省は風邪薬の保険はずしやスイッチOTCの拡大等をはかり、薬局・薬剤師に受診患者の振り分けをさせることも考えられます。この「物と技術の分離」に道を開く薬の保険はずしは絶対に許すわけにはいきません。
4)高齢化と政府の医療政策から、在宅分野の需要は今後ますます増大します。高齢者の薬物療法、IVH、栄養管理、褥瘡の治療等の技術を身につけ、医師や看護婦とともに研究します。また、介護用品の扱いについても積極的に検討し、自治体の助成の利用についての相談にのります。また、不十分な点については自治体闘争へと発展させます。
5)民医連薬局の在宅患者訪問など、私たちの活動は職能団体から注目されています。各種学会にもわれわれの活動を積極的に発表し、活動を普及します。
民医連医療機関との連携を軸に、多くの医療機関、職能団体、保健所等行政や機関、福祉施設等と協力し、患者本位の地域医療を前進させます。
1)受け入れ処方箋の増加により、私たちの薬局は民医連の医療機関以外の医療機関との連携をもつことが必然となります。これまでに蓄積した医療連携の優点を、ここにも生かしていく努力をねばり強くすすめます。
一方で、民医連の医療機関の処方箋を地域の薬局が受けることになります。地域の薬局からの民医連医療機関への紹介患者が増えることも予想されます。医療機関が地域の薬局にたいして公開医療講座を開設し、喜ばれている経験がたくさんあります。このような機会を積極的につくり、医療内容を紹介することは、地域医療を前進させるためにだいじなことです。さらに、地域の「有効で安全な薬物療法」を検討する場をつくることに発展させられるよう努力します。
2)国民は薬に不安をもっています。市民講座の定期開催など、薬を正しく理解し、正しく利用するために、共同組織と協力した市民運動を組織します。
3)医薬分業の今後の進展から、薬剤師会との関係は重視していく必要があります。備蓄センター、研修の受け入れ、情報提供等、私たちがはたせる役割を積極的にはたし、ともに「患者の立場に立った」地域医療を考えていきます。
4)在宅で療養する患者の要求にこたえるためには、訪問看護ステーションとの連携が決定的に重要です。訪問看護ステーション、在宅介護支援センター等、行政や福祉との連携を重視します。
1)医療・経営・社会保障などすべての活動に共同の営みの視点を貫きます。
2)株式会社、有限会社が多い薬局法人での共同組織とのあり方については、今後の検討課題ですが、薬局建設にあたっては患者、地域住民との十分な話し合いを前提にすすめます。建設委員会の中に共同組織会員の参加を求めたり、診療所建設に学んで、薬局建設にあたってもー定の共同組織の拡大を課題とするなどの工夫が必要です。その中で、地域の要求をつかみ、要求実現にどうこたえるか論議することが重要です。
3)われわれの活動が民医連薬局にふさわしく発展しているか否か、共同組織からチェックされるしくみをつくる必要があります。
4)薬局の新たな事業展開による、新たなつながりをもった地域住民を、共同組織へと発展させるよう努力します。
民医連は、加盟院所が民医連組織として発展していく保障として民主的大衆的所有が原則であるとしています。保険薬局の法人形態は、株式会社や有限会社などの営利法人しか認められていませんので、民医連としては出資方法にさまざまの工夫をしていますが、民医連運動上の弱点をもっていることは明らかです。それだけに、他の民医連院所以上に民医連の所有原則を貫ぬけるように改善していく必要があります。また、民医連に結集する意識的努力が重要です。
なお、薬剤師会などでも株式会社形態の是非、非営利をめざした薬局法人などの論議があります。医療法に薬局・薬剤師の役割を位置づけたこととの関連でも、薬局の法人形態として営利法人しか認めない行政指導を変えるために、積極的に議論に参加していきます。
民医連の保険薬局は、医療整備の促進と医療連携を区別しながら、民医連の医療機関と医療活動や運動面で強い連携をもち、連帯し合うことが重要です。このことがいっそう患者さんとの信頼関係を深め、薬局活動を前進させる、いわばここに民医連保険薬局の優点があることをしっかり踏まえることが必要です。
保険薬局の民主的管理運営を確立・強化するためには、幹部の役割が重要です。とりわけ法人のトップ集団が自立した経営体として、民医連の経営や管理運営の歴史的教訓に学んで、その自覚を高めることが必要です。幹部集団が時々の民医連の方針を学習し具体化すること、役員会議、職責者会議、職場会議の定例化など職場を基礎として運営を確立します。職場管理者の人事、経営、民主的な運営など管理運営を向上するための教育や研修などの意識的なとりくみが重要となっています。
民医連の保険薬局は設立して日の浅い施設も多く、民医連経験の少ない職員も多くいます。また、意識的な工夫をしないと患者さんとのふれあいや医療情勢を感じる場が狭められます。21世紀に向けて民医連運動を担う職員集団の形成がとりわけ重要な課題となっています。あらゆる場面で意識的に、民主的で階級的な視点を体験する機会をつくっていくことが大切です。また、事務系職員を含め積極的、計画的な医科法人との人事交流が必要です。
薬剤師の確保は、民医連の医療活動における薬剤活動の視点からも重要な意味をもっています。薬剤師不足は、民医連加盟の保険薬局の開設を困難にし、民医連外の薬局に処方箋の調剤を全面的に依頼することとなり、民医連の医療活動を全面的に実践していく上でも困難を生じることになります。
1)育てる学生対策、学生実習受け入れ
民医連の優位性、民医連の薬剤活動の優点をあらゆる機会を通じて学生に宣伝していくことは、後継者対策の上からも重要な活動です。このために、県連をはじめ各法人レベルでも薬剤師も参加した薬学対を組織することが重要です。この薬学対を中心に、部会活動の中でも後継者対策委員会や研修委員会などが学生対策や実習受け入れなどの活動を組織していきます。
2)卒後(生涯)教育、研修計画
薬剤師の生涯教育については、薬剤師会でも研修センターをつくり、生涯教育にとりくみはじめています。民医連でも県連部会や法人などで制度教育として、技術学習だけでなく理念学習も行われています。その内容については統一されたものではありませんが、民医連の薬剤師の養成という点からすれば一定の統一された研修計画と、それぞれの研修での獲得目標を明らかにすることが必要となっています。とくに、新入薬剤師が増加しているもとで、体験学習などの工夫をしながら理念教育を重視し、民医連の医療活動を理解してもらうことが大切です。
医薬分業が進行する下では、トータルな薬剤師養成の面からも医療機関と保険薬局の人事交流の必要性は増してきます。そのあり方も検討課題です。
「全日本民医連事務政策指針」(1994年2月)は、「今日の情勢のもとで民医連運動の中での事務職の役割の重要性、事務幹部への期待が高まっている」と述べています。そして、民医連事務職員の基本的役割として5つの任務(1)受付業務の習熟、2)軽営活動への参加、3)診療部門への正確な情報の提供、4)共同組織活動への参加、5)社会保障闘争などでの役割を積極的に担う任務)を提起しています。これらの求められる事務職の役割は、急激に拡大し改善すべき課題も多い保険薬局分野では特別に重要な意味をもっています。
少数職種で構成される保険薬局の事務職員がこれらの役割を遂行し、成長し、幹部として育っていくためには、薬剤師との協力関係が特別に重要です。また、県連事務部会への参加や県連的に保険薬局事務部会なども設置して、教育研修、業務交流、人事交流なども旺盛にすすめましょう。保険薬局は今後とも多くの施設が民医連加盟されるとみられ、民医連運動の一翼を担うことが期待されています。
このような状況にあって、組織者としての事務の役割はたいへん重要であり、適切な幹部配置も含めて「全日本民医連事務政策」に学んで創造的に発展させていくことが大切です。
「転換期」の医療情勢の下では、保険薬局の経営をめぐってもその反映がきびしくあらわれてくることを見すえる必要があります。
一方では保険調剤業務の充実をはじめ、OTC・在宅医療など薬局の機能を高めるため、体制や施設・設備の充実強化が従来以上に求められ、費用の増大が迫られます。一方で薬価差の減少に加え、「薬剤使用の適正化」や「面分業」の推進など調剤報酬上でも、「パイの再配分」の論理で厚生省の政策を誘導する体系にもっていかれようとしています。
これら情勢のどんな変化にも立ち向かい、薬局分野における民医連運動の基盤を確立し、一世紀に向かって発展させるためには、薬局自身の医療と経営戦略を練り上げ、中・長期計画を策定し、それにもとづく着実な実践が不可欠です。計画をもつにあたっては、以下のことが重要です。
1)地域の患者・住民の要求にこたえる立場から連携する医療機関とも協力・共同し、薬局自身の発展と民医連運動全体の発展を統一的にとらえる。
2)薬剤師確保や共同事業など、県連やブロックの視点でもすすめる。
3)長期の収支計画と資金計画をもつとともに、調剤報酬改定などの情勢や条件の変化をふまえた適切な修正も加え、常に科学的な経営計画をもつことに努める。
きびしい複雑な情勢の下で、保険薬局分野での民医連運動を発展させるためには、関係法人の県連への意識的な結集と県連の指導性の発揮が求められます。基本的な医療・経営・社保活動などの県連への集中と指導は当然のこととして、医科法人との人事交流も積極的に行われるように、県連の指導・援助を重視する必要があります。
県連理事会の下に保険薬局委員会などを設置し、指導・援助できる県連機能を確立します。
医薬分業と薬局、医薬品をめぐって激動する情勢の下で、日常的にはつぎつぎと新たな課題がとびこんできて、悩みや苦労はつきないでしょう。しかしその大部分は、日本のどの薬局でももっている模索と創造に属するものです。同じ苦労でも、民医連の院所と薬局がもっている、他にはない優位な条件の下でする苦労は、それだけ患者・住民の要求にこたえる真の医薬分業への接近、そして日本のあるべき医薬分業への貢献につながることでしょう。
そんな大志とロマンをもって大いに議論と実践を重ね、「21世紀に向けた薬局分野における民医連運動の展望」を私たちみずからの手できりひらこうではありませんか。
以上